ブリッジでは,確率の数値を大まかに把握していることが必要です。
ブリッジの本によく載っているのは,たとえば,
「 7 枚のスートが,ディフェンス側の二人に どのように分かれるか」
という確率です。これは,ディクレアラーがプレイする上で必要な確率です。
ところが,そのほかに,ビッドの過程でも確率について大まかに理解している必要があります。
これについては,まとまった確率の表を見かけることが全く無いので,自分で計算しました。
計算式などは,すべて後の方にまとめます。
最初に取り上げるのは,たとえば,
その結果を 表 (1) に示します。
計算式に関心のある方は,後の方をお読み下さい。
同一スートでの 自分の枚数とパートナーの枚数の相関 [ 数値は 発生確率(%) ] | |||||||||||||||
自分の 枚数 |
8 枚 以上のフィット 確率 | パートナーの枚数 | |||||||||||||
0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | ||
0 |   1.2 |   0.1 |   1.5 | 7.4 | 18.7 | 27.5 | 24.8 | 13.9 |   4.9 | 1.0 |   0.1 |   0.0 |   0.0 |   0.0 |   0.0 |
1 |   3.4 |   0.2 |   2.6 | 10.6 | 22.9 | 28.6 | 21.6 | 10.1 |   2.9 |   0.5 |   0.0 |   0.0 |   0.0 |   0.0 | |
2 |   8.5 |   0.5 |   4.1 | 14.5 | 26.7 | 28.1 | 17.7 |   6.7 |   1.5 |   0.2 |   0.0 |   0.0 |   0.0 | ||
3 | 18.1 |   0.8 |   6.4 | 19.2 | 29.6 | 25.9 | 13.3 |   4.0 |   0.7 |   0.1 |   0.0 |   0.0 | |||
4 | 33.7 |   1.5 |   9.6 | 24.2 | 31.1 | 22.2 |   9.1 |   2.1 |   0.3 |   0.0 |   0.0 | ||||
5 | 54.4 |   2.5 | 13.9 | 29.2 | 30.6 | 17.4 |   5.4 |   0.9 |   0.1 |   0.0 | |||||
6 | 76.3 |   4.3 | 19.5 | 33.4 | 27.8 | 12.1 |   2.7 |   0.3 |   0.0 | ||||||
7 | 92.9 |   7.1 | 26.2 | 35.7 | 22.8 |   7.1 |   1.0 |   0.1 | |||||||
8 | 100 | 11.4 | 33.8 | 35.2 | 16.1 |   3.2 |   0.2 | ||||||||
9 | 100 | 18.2 | 41.1 | 30.8 |   9.0 |   0.9 | |||||||||
10 | 100 | 28.4 | 46.2 | 22.2 |   3.1 | ||||||||||
11 | 100 | 43.9 | 45.6 | 10.5 | |||||||||||
12 | 100 | 66.7 | 33.3 | ||||||||||||
13 | 100 | 100 |
また,自分が 5 枚持っているとき,パートナーが 3 枚以上で サポートしてくれる確率は, 54.4 % であることが分かります。 1 や 1 オープンしたときの経験と合っているでしょうか…。
次は,2 スーターの場合です。たとえば,
自分が持っている 2 スーターの枚数 | ||||||
枚数 | 33 | 44 | 54 | 55 | 65 | 66 |
8 枚以上のフィット確率 | 35.2 | 60.3 | 74.2 | 83.5 | 92.2 | 96.4 |
いくつか説明を加えておきましょう。
確率の計算をらくにできるようになったので,今度は,ハンド・パターンごとにフィット確率を計算してみました。
ここでは,とくに,4-3-3-3 のバランス・ハンドに注目します。経験からよく知られていることですが,
4-3-3-3 の形は 何をするにも不利です。
スートのコントラクトでは,切り札のフィットが見つかりくいし,仮に見つかっても,
自分の手では切ることができません。そうかと言って,ノートランプでは,長い (マイナー ) スートで
走ることもできません。結局, 4-3-3-3 の場合には,高い HCP を持っていないと勝負になりません。
そのため,4-3-3-3 の形では 12 HCP ではオープンしないのが普通です。
こういう 4-3-3-3 型ハンドの不利な状況を,フィット確率という数値により定量することが目的です。
確率の計算結果は,次のようになりました。
ハンド パターン | フィットする確率(%) | Rule of 20 でのカウント | 発生確率 (%) | |
8 枚以上 | 9 枚以上 | |||
4 ‐3 ‐3 ‐3 | 76.4 | 25.6 | 7 | 10.54 |
4 ‐4 ‐3 ‐2 | 79.1 | 29.0 | 8 | 21.55 |
4 ‐4 ‐4 ‐1 | 83.1 | 34.0 | 8 | 2.99 |
5 ‐3 ‐3 ‐2 | 82.5 | 34.5 | 8 | 15.52 |
5 ‐4 ‐2 ‐2 | 84.5 | 37.5 | 9 | 10.58 |
5 ‐4 ‐3 ‐1 | 85.8 | 39.2 | 9 | 12.93 |
5 ‐4 ‐4 ‐0 | 89.3 | 44.4 | 9 | 1.24 |
5 ‐5 ‐2 ‐1 | 89.5 | 46.7 | 10 | 3.17 |
5 ‐5 ‐3 ‐0 | 91.0 | 48.9 | 10 | 0.90 |
6 ‐3 ‐2 ‐2 | 90.2 | 49.8 | 9 | 5.64 |
6 ‐3 ‐3 ‐1 | 91.0 | 51.2 | 9 | 3.45 |
6 ‐4 ‐2 ‐1 | 92.1 | 53.6 | 10 | 4.70 |
4-3-3-3 と 4-4-3-2 の 2 つの場合には,フィット確率が低く,とくに 4-3-3-3 では 際立って確率が低くなっています。このように,4-3-3-3 が損な形であることは,フィット確率の低さからも 裏付けられました。
右から 2 番目の欄に示したのは,2 スートの合計枚数です。
この結果から,ルールオブ 20 によるカウントとフィット確率とが
良い比例関係 ( 1 次式の関係 ) にあることが分かります。
数字だけでは分かりにくいので,これを,右のように,グラフにしました。
縦軸はフィット確率を示しており,X は 8 枚フィット,
X は 9 枚フィットの確率です。
第1スートの枚数 (4, 5, 6) により,どちらも三色に
色分けしています。
横軸には,上位 2 スートの合計枚数を取りました。
このグラフから,フィット確率と Rule of 20 のカウントが,
非常に強い相関を持つことが分かります。
オープニング・ビッドの段階では自分のカードしか見えていないので,自分の手がパートナーの手と
どのくらいよくフィットするかは全く分からないのですが,Rule of 20 に従えば,フィット確率の
高いハンドをオープンしやすいと言えます。
Rule of 20 について,私がこれまで漠然と理解していたのは ( 正確に言うと,
理解していると思っていたのは ),
Rule of 20 を使えば,
「もしもパートナーと切り札のフィットがあれば,短いスートで切れるとか,長いスートで走れるから有利」
と
いうことでした。しかし,「もしも」と言うのは,間違いだったのです。
Rule of 20 を使えば,
要するに,HCP (手の強さ ) とは無関係に,切り札のフィット確率は
こんどは,たとえば,
「N-S ペアが合計して 10 枚の切り札を持つ確率はいくらか ? 」
というような問題です。その結果は 次の通りです。
枚数 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 |
確率(%) | 15.7 | 45.7 | 28.1 | 8.7 | 1.6 | 0.16 | 0.01 |
この表から,合計 8 枚の場合が最も多い(45.7%) ことが 分かります。
次に多いのが 9 枚で,
この 2 つで 73.9 % を占めます。
10 枚の切り札は,約 11 回に 1 回の割合で発生します。
最後に計算するのは,N-S ペアの切り札枚数と,E-W ペアの切り札枚数の間の相関です。 たとえば,
切り札枚数の相関 (発生確率 %) | ||||||||||
味方の
枚数 | 相手方の枚数 | |||||||||
7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 発生確率 | |||
7 | 66.67 | 33.33 | * | * | * | * | * | 15.74% | ||
8 | 11.47 | 58.86 | 25.08 | 4.30 | 0.29 | * | * | 45.74% | ||
9 | * | 40.83 | 41.64 | 14.58 | 2.71 | 0.23 | 0.01 | 28.10% | ||
10 | * | 22.68 | 47.25 | 23.43 | 5.85 | 0.75 | 0.04 | 8.67% | ||
11 | * | 8.48 | 48.16 | 32.10 | 9.67 | 1.49 | 0.09 | 1.58% | ||
12 | * | * | 41.00 | 41.17 | 14.94 | 2.69 | 0.19 | 0.16% | ||
13 | * | * | 24.30 | 48.60 | 22.08 | 4.64 | 0.38 | 0.01% |
表の中の星印 (*) は,確率が 0 であることを示します。つまり,そういうことは,絶対に起こりません。
この表は,Cohen の 2 冊目の本に載っているもの (Edward Schwan による 1000 個のディールでの
コンピュータ・シミュレーション) に対応します。
ただし,上の表は 数学的に厳密なものであり,シミュレーションではありません。
この表から,いくつかのことが分かります。
(1) 味方が 7 枚の切り札を持つとき,相手方の切り札は,7 枚 または 8 枚のどちらかであって, 9 枚以上ではありません。そして,7 枚の場合が 8 枚の 2 倍頻繁に発生します。
(2) 全体を通じて最も発生しやすいのは 双方とも 8 枚持つ場合です。
その発生確率は,45.74% × 58.86% = 26.98% (ほぼ,4 回に 1 回) です。
したがって,競り合いは 2 の代で起こりやすいことが分かります。
(3) 味方が切り札を 9 枚持つ場合には,相手方の切り札は 8 枚,9 枚の場合が
ほぼ等しい確率 40% で起こります。このような知識は,LoTT に基づく判断を行う上で
役に立ちます。
(4) 味方の切り札が 10 枚のときには,相手方の切り札は 8〜10 枚に分布して
判断に困ります。
その判断を助けるには,この表を更に詳しくして,ダブル・フィットまで 調べる必要があります。そこまで詳しく調べた結果が,下の表です。
Correlation between Trump Distributions | ||||||||||
[8d] = 8 + 8; [9d] = 9 + 8 as well as 9 + 9. | ||||||||||
Our Trumps | Their Trumps | |||||||||
7 | 8 | 8d | 9 | 9d | 10 | 11 | 12 | 13 | Frequency | |
7 | 66.67 | 33.33 | * | * | * | * | * | * | * | 15.74% |
8 | 14.81 | 66.67 | * | 18.52 | * | * | * | * | * | 35.41% |
8d | * | * | 32.11 | 47.57 | * | 19.03 | 1.30 | * | * | 10.34% |
9 | * | 32.43 | 24.32 | 36.04 | * | 7.21 | * | * | * | 20.22% |
9d | * | * | * | * | 55.99 | 33.50 | 9.66 | 0.82 | 0.02 | 7.88% |
10 | * | * | 22.68 | 16.80 | 30.45 | 23.43 | 5.85 | 0.75 | 0.04 | 8.67% |
11 | * | * | 8.48 | * | 48.16 | 32.10 | 9.67 | 1.49 | 0.09 | 1.58% |
12 | * | * | * | * | 41.00 | 41.17 | 14.94 | 2.69 | 0.19 | 0.16% |
13 | * | * | * | * | 24.30 | 48.60 | 22.08 | 4.64 | 0.38 | 0.01% |
変更したのは,次の 2 つの分類です。
◇ 8 枚フィットを,単純 8 枚フィット [8] と ダブルフィット [8d] (8 枚 + 8 枚) に
細分しました。
◇ 同様に,9 枚フィットを 単純 9 枚フィット [9] と ダブルフィット [9d] に細分しました。
ここで [9d] は,9 + 8 枚 および 9 + 9 枚の両方を含みます。
全体として,こちらがよくフィットしていれば 相手もよくフィットしています。
つまり,カードの 強さの分布 は 場合によって まちまちですが,カードの枚数の分布は,
かなり公平です。
この表を見ると,いくつかの面白いことに気づきます。
まず気づくのは,[8] と [8d] の交点の確率が 0 であること ―― すなわち,片方だけが 8 枚のダブルフィットが
持つことは,ありえません。
こちらに [8d] があれば,相手方には 少なくとも [8d] (32%) があります (単純な 8 枚フィット [8] はありえない) 。
[8d] でなければ,[9] (46%) または [10] (19%) があります。
10 枚フィット [10] が片方にある場合も同様です。
このとき,相手方には,少なくとも [8d] があります。単純 8 枚フィットはありえません。
これに対して,こちらに 9 枚の単純フィット [9] がある場合には,
相手方の切り札の発生確率は [8], [8d], [9] にほぼ等しく分布するので,ここから競り合い
ビッドに関して有効な情報を得ることはできません。
ただし,[9d] になると,事情は一変します。
このとき,相手方は少なくとも [9d] を持ちます。 [8] も [8d] もありえません。
以上のようなことがあるので,味方に [8d], [9d], [10] のフィットがある場合には,(合計トリック数が大きいことが事前に分かるので)
相手方がビッドする前に先行して プリエンプトする有効性が保証されます。つまり,上のような確率の知識と
LoTT とを組み合わせると,状況に応じた競り合いが可能になります。
確率の知識無しに 単に LoTT だけでは,理解できないことです。
( 9,a,b,c ) | ( 4, x, y, z ) |
(9,7,7,3) | (4,6,6,10) = [10] |
(9,7,6,4) | (4,6,7,9) = [9] |
(9,7,5,5) | (4,6,8,8) = [8d] |
(9,6,6,5) | (4,7,7,8) = [8] |
( 9, 8, b, c ) | ( 4, 5, y, z ) |
(9,8,7,2) | (4,5,6,11) = [11] |
(9,8,6,3) | (4,5,7,10) = [10] |
(9,8,5,4) | (4,5,8,9) = [9d] |
確率の計算は,結果の数値を知れば十分という方が大部分でしょう。
でも,どうやってそれを計算したかを
書いておかないと,その数値が正しいという保証がありません。そこで, 2 項係数 nCr = n! / r! (n−r)! を
使った計算方法を ここに書き留めておきます。
表 (1) では,たとえば,
スペードの枚数に注目して考えると,
表 (2) では,たとえば,
表 (3) では,たとえば,
表(5) のような確率は,次のように考えて計算します。
52 枚のカードをどう配るかという問題ですが,いまは,個々のプレイヤーへの
配り方は問題になっていません。
各ペアへのカードの分配だけが問題になっています。
したがって,
パターン | 例 | 多重度 |
3つ同じ | [7775] | 4 |
2 つ同じ対 | [7766] | 4! / 2! 2! = 6 |
2 つ同じ | [8864] | 4! / 2! = 12 |
すべて異なる | [9863] | 4! = 24 |
もうひとつの分布
(b) 7 ‐7 ‐7 ‐5
では,場合の数が
以上のようにして,すべての場合の確率を (Visual Basic でプログラムを作成して ) 計算しました。したがって,上の表(1)〜(5) の確率は,シミュレーションに よるものではなく,すべて厳密な数値です。
ブリッジで確率を計算するときの考え方は,Durango Bill さんの ウェブサイト に説明されています。