交流ラウンジでのビッドから (後篇)

 © boco_san (ぼこさん) 2002/Aug - 2013/Jan.  メイリオ印刷 (107 ページ)


オープン側のビッド

ルールオブ 20 と 13 点オープン … 3‐6.
リミット・レイズ () … 7‐8.
切り札 3 枚と 4 枚の違いは天地の差 () … 8‐9.
ディクレアラーのシングルトンは なぜ有利 ? …  10.
リミット・レイズ () … 11‐12.
リミット・レイズ () の後は … … 13‐15.
1 〜 1 オープンへの 2NT … 16‐18.
ルールオブ 23 (2NT が示す強さ) … 19‐20.
リバース・ビッド (2 の代の応答) … 21‐23.
1‐2 は 要注意 … 24‐26.
ゲーム・コントラクトに到る道筋 … 27‐28.
ゲーム・フォーシングの手段 … 29.
第 4 スートフォーシング (FSF) … 29‐32.
ノートランプのストッパ … 33‐40.
   ボロでも ストッパ ? … 33‐35.
   ハーフ・ストッパ …  35.
   ストッパを確認する … 35‐38.
   ハーフ・ストッパを確認する … 39‐40.
5 枚+ 5 枚でのオープン … 41‐43.


ルールオブ 20 と 13 点オープン

  1. [ルールオブ 20 と 13 点] このホームページの前篇では,ルールオブ 20使って 1 の代の スート・オープンを判断する という説明がありました。
    でも,ブリッジの本には,よく「13 点でオープンする」と書いてあります。
    この 13 点というのは 13 HCP なのですか,それとも 13 pts なのですか ?

    ―― 13 pts です。長さ点 (LP) を含めて 数えます。

  2. [比較してみる] それでは,前篇のオープニング・ビッド例に戻って, LP を数えてみませんか ? この点数と ルールオブ 20 との関係が面白そうです。

    ―― どうなるか分かりませんが,では やってみましょう。
    その 6 つの手を再掲すると ….

    [1] A 10 7  A Q 10 9 8 7 2  8 7  5   1 オープン
    [2] 10 7 5  Q 9 2  Q 10 4 2  A K J   パス.
    [3]  A K 7 3  9  9 8 6 4 2  K J 6   1 オープン.
    [4]  K J 7 6 4  A J 3  J 5  Q 8 2   1 オープン.
    [5]  K 10 8 4  K 9  A Q 7  9 7 3 2   1 オープン.
    [6]  K 10 4  K 9 5  A Q 7  J 7 3 2   パス.
    こうでした。では,この 6 つについて TP を計算して下さい。

  3. [比較の結果] これが 結果です。
      TP  LP HCP Rule of 20

      [1]  13  310    + 7 + 3 = 20,オープン  
      [2]  12  012    + 4 + 3 = 19, パス
      [3]  12  111    + 5 + 4 = 20,オープン
      [4]  13  112    + 5 + 3 = 20,オープン
      [5]  12  012    + 4 + 4 = 20,オープン
      [6]  13  013    + 4 + 3 = 19, パス

    ―― この結果から,どんなことが分かりますか ?

  4. [一致と食い違い] ちょっと思いついてみただけだったんですが …,
    13 点オープン と ルールオブ 20 では,判断がほぼ一致しています。
    [1], [2], [4] では判定が一致。でも,[3], [5], [6] では,食い違っています。

    ―― ここでは,食い違いに目を向ける前に,大局的に見て,両者の判断ががほぼ一致していることが重要です。 つまり,ルールオブ 20 でオープンする手は,13 pts ( あるいは,それと同等の強さ ) を持っています。

  5. [同等?] 13 pts 無い [3] や [5] が同等なんですか ?

    ―― それでは,次に食い違いに目を向けましょう。
    [3] と [5] には,1 つの特徴があります。分かりますか ?

  6. [特徴] あっ,はい。…。うーんと。
    そうか ! [3] と [5] では,第 2 スートが 4 枚なんだ。
     この 4 枚は LP にはカウントされない。
    けれども,ルールオブ 20 では 4 として加える …。
    この違いですね。

    ―― その通りです。
    ルールオブ 20 では,この 4 枚スートを カウントします。
    その理由は お分かりですね。

  7. [長いスートが有利] はい。それは良く分かります。
    長いスートを持っていると,トリックを たくさん取れます。

    ―― 二人で長いスートを持っていると,プレイのときに, 多くのトリックを取れる。…
     これは,スート・コントラクトにも,ノートランプ・コントラクトにも,共通しています。
     この点は,ルールオブ 20 の長所として,よく理解されています。
     ところが,ルールオブ 20 は,ビッドの上でも重要なのです。

  8. [ビッドでも重要] どういうことですか ? ビッドでも重要とは。

    ―― 手の形より 分けて考えましょう。
    第 1 スートが 5 枚の場合, オープンに必要な HCP は,それぞれ,次のようになります。

    《 2 つの判断で要求される HCP の違い 》
     手の形   13 点オープン   ルールオブ 20   切り札発見確率 
     5-3-x-x 12 HCP12 HCP54.4 %
     5-4-x-x 12 HCP11 HCP74.2 %

  9. [フィット確率] はい。ルールオブ 20 では,ハンド [3] の場合に 1 HCP 低くてよい。それで …,その後にある「切り札発見確率」とは ?

    ―― こういう種類の確率を,私がいろいろ正確に計算しました。詳しくは別ページを お読みいただくとして,今の場合について,説明しましょう。
     こういうことです。
      (1) 5 枚のスートをあなたがオープンしたとき, パートナーがそのスートに 3+ 枚を持つ確率は 54.4 %,つまり ほぼ 2 回に 1 回の割合です。
      (2) [53] 型の場合には,これ以上切り札の探索はできません。 仮にレスポンダが何かのスートをビッドしても,それは 4 枚しか保証しません。
      (3) [54] 型だったら,機会があれば,自分から第 2 スートを示すことができる。 第 2 スートのフィットまで探索できると,フィット確率がぐ〜んと上がって,(5-3 フィットと 4-4 フィットの確率を合計して) 74.2 %, すなわち,ほぼ 4 回に 3 回の割合です。

  10. [ 4 と 3 の違い] ふーむ。なるほど…。4 枚と 3 枚の違いは,プレイだけではなく,ビッドでも大きいということですか。

    ―― その通りです。
    したがって,[54] 型ならば,11 HCP でも オープンするのが得です。
    先へ進んで,第 1 スートが 4 枚の場合は, 次の通りです。

    《 2 つの判断で要求される HCP の違い 》
     手の形   13 点オープン   ルールオブ 20   切り札発見確率 
     4-3-3-3  13 HCP13 HCP33.7 %
     4-4-x-x  13 HCP12 HCP60.3 %

  11. [吃驚] これには,ちょっと驚かされる。
    [43] と [44] で,確率がこんなにも違うんですか…。

    ―― はい。ビッドの機会まで考慮した確率は,このようになります。
    [44] 型で 2 回ビッドして 2 スートを示せると,フィット確率が ほぼ 2 倍になります。 1 HCP の差なんか 問題ではありません。切り札が見つかることの方が,ずっと大事です。
     もちろん,[43] 型の場合,パートナーが 3 スートのどれかに 5 枚を持っている確率は高い。 けれども,ビッドがあなたから始まった場合,そのフィットを見つけるのは,とても難しい。 例外として,1NT オープンできる強さがあれば ( トランスファが使えるので ),問題ありませんが, 単にスートでオープンした場合には むずかしい。

  12. よく分かりました。
    ルールオブ 20 というのは,とても有り難いルールなんですね。

    ―― そう思います。私も,確率の計算を終えるまでは,ルールオブ 20 に ここまで深い意味があることに気づきませんでした。 先人の慧眼には 敬服します。
     いま思い起こすと,私がブリッジを始めた頃は,システムそのものは今よりずっと単純でした。 けれども,オープニング・ビッドがとても難しかった。
     オープニング・ビッドが入門者の障壁になっていました。 しかし,今ではこのルールのお蔭で 初心者も正確にオープン / パスできるので, 最初の障壁は消滅しました。

     ここで 脱線から戻りましょう。
    [43] 型が出たついでに,ここでひとつ注意を付け加えておきます。

  13. [43 型に必要な注意] どんな注意ですか ?

    ――

    K 4 3 2
    Q 9 7
    K Q 6
    9 8 6
    ( 10 HCP )
    PardRHOYouLHO
    1NTパス ?
    1NT にステイマンを使う場合が 分かりやすい。
    右のような [43] 型バランス・ハンドを持っているとき,パートナーが 1NT オープンしました。

  14. これなら,スペードが 4 枚あるから 2 とステイマン。

    ―― いいえ。それはいけません。
     仮にスペードを切り札にしても,あなたのこの手では, (他の 3 スートがどれも 3 枚なので) 切ることができません。
    ステイマン 2 の目的は,4 枚 + 4 枚の メジャー・スートのフィットを見つけることですが,それは 切り札で切れる場合に 意味を持ちます。 切れないのなら,4, 4 より 3NT の方が安全です。

  15. だったら,10 HCP あるから 3NT …。

    ―― いいえ。それもまずい。
    1NT をビッドしたパートナーは,バランス・ハンドを持っています。 あなたも 最高のバランス・ハンドです。 二人の手に 長いスートはありません。
     この場合に トリックを稼ぐのは,長いスートではなくて,HCP に頼る真っ向勝負 …。
     こういう [43] 型では,1 HCP 減点して 2NT をビッドします。


リミット・レイズ ( メジャー・スート )

  1. [リミット・レイズの基準] メジャー・スート () のサポートについては,前に説明がありましたが, リミット・レイズ
    SouthWestNorthEast
    1 パス 3
        
    SouthWestNorthEast
    1 パス 3
    の基準は ?

    ―― その基準は,
      (1) ダミー点で数えて,10〜12 pts。
      (2) 切り札のサポート枚数は 4+ 枚です。
    ここで,「切り札 4 枚」は,絶対に必要な条件です。
    ただし,オーバーコールが入った場合には,3 枚の良いスートでも リミット・レイズします。

  2. [切り札 4 枚の理由] メジャー・スートのリミット・レイズに,切り札が 3 枚ではなくて,4 枚必要なのは,なぜですか ?

    ―― この理由は,簡単です。
    切り札の合計枚数が 8 枚ではなくて 9 枚だと,1 トリック余分に取れる (と期待できる) からです。 下の説明 () を お読み下さい。
     よく知られている LoTT (合計トリック数の法則) は,「7 枚目以降の 切り札がラフに使えること」を前提として 成り立ちます (LoTT のメカニズム)。

     そこで,North の リミット・レイズを受けた South は,ルールオブ 20 に照らして判断し,下限の手でない限り ゲームをビッドします。

  3. [下限の場合] オープナーは,下限の場合,いつでもパスするのですか ?

    [1]  K 7 5
    A Q 9 8 6
    9
    K 9 8 4
    ( 12 HCP )
    ―― いいえ。例外があるようです。
    たとえば,右の手を 1 オープンしたところ,パートナーから リミット・レイズ 3 が返ってきました。 4 をビッドしますか ? それとも,パスしますか ?

     12 HCP のこの手は,1 オープン するには下限です。 しかし,パートナーが リミット・レイズして切り札 4 枚を保証してくれると, のシングルトンの値打ちが ぐ〜んと上がります。
     こういう場合には,( シングルトンが絵札の場合を除いて ) オープンできる 最低限の手でも,ゲームをビッドしなさい … と,
    Mike Lawrence : "Conventions" (ソフトウェア) は 勧めます。
    この勧めが正しいかどうか,一度 自分で試してみて下さい。

     [補足] 上の手の場合,ダイヤモンドがダブルトンの場合と比較すると,負け札が 1 枚で済みます。 その埋め合わせとして他のスート (おそらく ) で 1 トリック 取れることを 期待するのでしょう。お代りの勝ち札がどのスートにあるかが問題です。
    ここでは,LoTT は無関係です。

  4. [リミットとは] いまさら おかしいかも知れませんが,「リミット・レイズ」の「リミット」とは,どういう意味でしょうか ?

    ―― リミットとは,「手の強さの範囲を示す( 制限する )」という意味です。
    そして,手の強さの範囲を示すと同時に,パートナーをゲームへ誘うビッドを リミット・レイズ と呼びます。
     よく御存じの例としては,1NT を 2NT に上げるのも リミット・レイズです。 このビッドは,8〜9 pts という狭い範囲を示して, オープナーを 3NT へ誘います。


3枚と4枚では 天地の差がある

 ダミーの切り札 3 枚と 4 枚の違いは,コントラクトの成否に関わります。
 ハンド例を見てみましょう。
North コントラクト
A 6 4 4
K 5 4 2
10 6 2
West K 7 2 East
Q 9 8 3 J 10 5 2
J 10 7 3
A J 8 4 K Q 5 3
J 10 9 5 Q 8
K 7
A Q 9 8 6
9 7
A 6 4 3
South (13 HCP)

 [2] South に座っているあなたは, 13 HCP の この手に ルールオブ 20 を当てはめると
  13 + (5 + 4) = 22 ≧ 20
となるので,1 オープンしました。
 North は,4 枚のハートと 10 HCP で 3と リミット・レイズします。
 North は 4-3-3-3 の悪形なので, 割り引いて考えるところですが, 絵札が Ace と King だけなのに惹かれました。
 ここで あなたは,22 が 20 に比べて余裕があると見て,4 を ビッドします。
このコントラクトは,容易に成立します。
 J の打ち出しを勝ち,3-1 に分かれている 切り札を刈り上げ, を 1つ負けます。そして,4 枚目の をダミーでラフすれば,でき上がりです。
 ここで重要なのは,切り札を刈り上げても ダミーの手に なお 1 枚残る … ということです。
 もしもダミーの切り札が 3 枚ならば,4 枚の のうち, 1 枚が負けて,もう 1 枚が未処理のまま残り, の 2 枚と合わせて,4 枚の負け札が発生します。
 そうかと言って,切り札を刈り上げずに を打てば,East にラフされます。
 ところで, … South の がシングルトンの場合には, どうなるでしょうか ?
North コントラクト
A 6 4 4
K 5 4 2
10 6 2
West K 7 2 East
Q 9 8 3 J 10 5
J 10 7 3
A J 8 4 K Q 9 5 3
J 10 9 5 Q 8
K 7 2
A Q 9 8 6
7
A 6 4 3
South (13 HCP)
 [3] South の 9 を East の 2 と 交換してみましょう。
 この場合,確かに は シングルトンです。 でも の負け札 1 枚が に 移っただけです。
 したがって,「シングルトン」だからといって,取れるトリック数が 増えるわけではありません。
 シングルトンを理由に 1 トリック上乗せして考える場合には,どのスートで 1 トリック 余分に取れるかを 具体的に判断する必要があります。

ディクレアラーのシングルトンが有利な本当の理由

 ダミーのシングルトンが有利なことは,誰の目にも明らかです。 シングルトンのスートをラフすることにより,トリックを稼げるからです。
 しかし,ディクレアラーのシングルトン・スートを 長い切り札でラフしても, 取れるトリック数は,増えません (例外は,ダミーの手が強くて, ダミー・リバーサルが使える場合です)。
 けれども,ブリッジの (殊に Lawrence の) 本には,ディクレアラーのシングルトンが有利に働くと書かれています。 その理由は全く書いてありません。
たぶん,経験則なのでしょう。
 この点を久しく不思議に思っていました。
 今では,上のような例の考察と フィット確率を計算した経験から およそ,次のようなことだろうと考えています。
 話は,シングルトンより ボイドの方が簡明です。
 ボイドを含む手が強いことは,誰もが経験から知っています。 その理由は,「ディクレアラーが ボイド・スートをラフできる」からでしょうか ?
 もちろん,そうではありません。
 答は 手の形にあります。
 5 枚の切り札とボイドを持つ手を考えてみましょう。
 その形は,5-4-4-0,または 5-5-3-0 のいずれかです。
 5-4-4-0 の場合には,4 枚スートが 2 つあるので,このどちらかをダミーが 4 枚持っていれば,合計 8 枚となり, 切り札のフィットと合わせて ダブルフィットになります。
 また,5-5-3-0 ならば,5 枚のサイド・スートにダミーが 3 枚持っていれば,ダブルフィットです。
 このように,ボイドを含む手では,高い確率でサイド・スートでのフィットが発生し, 数多くのトリックを取れる というのが,正しい理由です。
 シングルトンの場合に話を戻すと,シングルトンを含む手は, 5-5-2-1 または 5-4-3-1 です。 5-4-3-1 が最も普通でしょうが,この 4 枚スートでのフィットがあるかどうかが, 有利に働くかどうかを決めます。そのチャンスは十分ありますが,ボイドの場合と比べれば,格段に劣ります。
 この話題は,切り札の枚数が絡むので LoTT 関連と思い違いする方がおられるかも知れませんが,LoTT そのものとは無縁であり,LoTT を補正する話です。


リミット・レイズ( マイナー・スート )

  1. [リミット・レイズの基準] マイナー・スート (,) のサポートについては,前に説明がありましたが, ダブル・レイズ
    NorthEastSouthWest
    1 パス 3
        
    NorthEastSouthWest
    1 パス 3
    には,どんな基準を使いますか ?

    ―― その基準は,
      (1) ダミー点をまだ使わずに,11〜12 pts.
      (2) 切り札のサポート枚数は,5 枚.
    です。
    マイナー・スートの場合には,オープナーの切り札が平均して 4 枚なので (3 枚のこともある), リミット・レイズには 「切り札 5 枚」が必要です。
    要するに,リミット・レイズには,合計 9 枚の切り札が必要です。
     その理由は,さっきと同じです。
    ただし,オーバーコールが入った場合には,4 枚でも リミット・レイズして 競り合います。

     マイナー・スートでの リミット・レイズは,メジャー・スートの リミット・レイズ場合とは 使い方が かなり違うので,注意が必要です。
      [A] メジャー・スート () は どちらも 3 枚以下に限ります。
    もしも 4 枚のメジャー・スートがあれば,まず それをビッドします。
      [B] オーバーコールがあれば,ネガティブ・ダブルを使って メジャー・スートを示します。
      [C] リミット・レイズの後では,ノートランプを目指すので,ダミー点に頼らずに 十分な強さが必要です。
      [D] (メジャー・スートの場合と違って) 急いで切り札のサポートを示す必要は無いので, ほかに適当なビッドが無く,リミット・レイズが適切な場合に 限って,ダブルレイズします。
     つまり,このビッドの優先順位は かなり低い。
     「珍しい」と言っても よいでしょう。

  2. [リミット・レイズの例] マイナー・スートの場合,どんな手でリミット・レイズするのか,例を示していただけませんか ?

    South
    8 7 2
    A 8 3
    J 5
    K Q 8 6 5
      ( 10 HCP )
    ―― Hand Generator という便利なものを使って,作ってみましょう …。
    こんな手ができました。
     1 オープンに対して,South は この手で 3 リミット・レイズします。
    •   10 HCP + 1 LP = 11 pts ある。
    •  クラブは 5 枚ある。
    •  メジャー・スートは,どちらも 3 枚以下である。
    •   は 2 枚しか無いので,ビッドできない。
    •  1NT をビッドするには,良すぎる。
    •  2NT をビッドするには,疑問がある ( のストッパが無い)。


マイナー・スートのリミット・レイズ以後の展開

  1. [その後の展開] マイナー・スートの リミット・レイズ ( 1-3 ) の後は, どういう展開になるのですか ?

    ―― メジャー・スートの リミット・レイズは 誰でもよく経験しますが,マイナー・スートの リミット・レイズは, 珍しいので,対応に困ることがあるようです。
     ブリッジの本にも あまり見かけないので,少し丁寧に説明しましょう。
     オープナーは,通常,この リミット・レイズ 3 をパスします。

    マイナー・スートの リミット・レイズを,オープナーは パス
    と 覚えておきましょう。
     たとえば,先ほどの South の リミット・レイズに対して,オープナー (North) が下の手を持つ場合には,3 をパスします。
     クラブ以外の 3 スートがどれもよく止まるので,3NT ができそうな感じがしますが,強さが足りません。
     ダイヤモンドの打ち出しにより,3NT は 1 ダウンします。
    [North]
    K 9 6 3
    K 5
    A 4 2
    A 10 9 3
      ( 14 HCP )
       
    [South]
    8 7 2
    A 8 3
    J 5
    K Q 8 6 5
      ( 10 HCP )
       
    NorthEastSouthWest
    1 1 3 パス
    パス
    Hand Generator を使って,ハンド例を発生させてみれば分かりますが, 14 HCP のバランス・ハンドでは,3(クロスラフにより) メイクしますが,3NT は,(ほとんどの場合) ダウンします。
     HCP のパワーが不足しているためです。

  2. [いつでもパス ?] でも,North の手が もうちょっと 良ければ,3NT は メイクしますね。

    ―― はい。その通りです。
    でも,その場合には,North は 1 オープンではなく,1NT オープンしたはずです。

    [North]
    K Q
    Q 7
    A K 7 2
    A 9 7 3 2
      ( 18 HCP )
     したがって,ここでパスしないのは,バランス・ハンド以外であって,しかも,もうちょっと良い手の場合です。
     問題になるのは,右のように,ストッパが揃っていない セミ・バランス・ハンドです。
     ここで 3NT を跳び越して ゲーム未満の 4 に行くのは, もったい無いので,3 により ダイヤモンドのストッパを示します。 これに対して [1] South は,ハートのストッパ A を持っているので,3 を答えます。
     これを受けて,North は 3NT をビッドします。
    [1]  
    [North]
    K Q
    Q 7
    A K 7 2
    A 9 7 3 2
      ( 10 HCP )
       
    [South]
    8 7 2
    A 8 3
    J 5
    K Q 8 6 5
      ( 10 HCP )
       
    NorthEastSouthWest
    1 パス 3 パス
    3 パス 3 パス
    3NT

  3. もしも South が A を持っていない場合には ?

    ―― その場合には,[2] スペードのストッパ を持って いれば,3 をビッドします。
    これを受けて North は,ハートが止まらないことが分かるので,5行きます。 ハートの負け札が 2 枚あるので,スラムは無理です。

    [2]  
    [North]
    K Q
    Q 7
    A K 7 2
    A 9 7 3 2
        
    [South]
    A 7 2
    8 6 3
    J 5
    K Q 8 6 5
        
    NorthEastSouthWest
    1 パス 3 パス
    3 パス 3 パス
    5

     上の North の手では,1 ではなく 1NT オープンも 考えられますが, South がこれを直ちに 3NT に上げます。
     そして,ハートの打ち出しによりダウンします。

  4. もしも South が A, A, K のどれも持っていない場合には ?

    ―― South の 3 が 10 HCP を保証しているので, そういうことは稀ですが,でも その場合には,[3] South は 4 をビッドします。
    そこで North は (負け札が 1 枚, 2 枚の合計 3 枚あることを知り) 4 をパスします。

    [3]  
    [North]
    K Q
    Q 7
    A K 7 2
    A 9 7 3 2
        
    [South]
    J 7 2
    9 6 3
    Q J
    K Q J 6 5
        
    NorthEastSouthWest
    1 パス 3 パス
    3 パス 4 パス
    パス

  5. では,最後に,スペードとハートに両方ともストッパを持っている場合には ?

    ―― その場合には,[4] 3NT が良いコントラクトになります。
     ただし,South が リミット・レイズ 3 のところで 2NT をビッドしたかも知れません。

    [4]  
    [North]
    K Q
    Q 7
    A K 7 2
    A 9 7 3 2
        
    [South]
    A 7 2
    K 7 3
    J 5
    Q 8 6 5 4
        
    NorthEastSouthWest
    1 パス 3 パス
    3 パス 3NT パス
    パス
     ここに説明した例の場合,North は十分な強さを持っているので,
    3NT, 4, 5 の中のどれが良いかを (打診により) 選択できます。
     十分な強さが無ければ,怖くて打診できません。

  6. ここまでは,リミット・レイズの説明でしたが,もしも 私 (South) の手が とっても強くて,13+ pts で クラブ 5 枚の場合には,どうするのですか ?

    ―― その場合 () には,何も問題ありません。
    急いでパートナーのスートを上げる必要はありません。
    新しいスートを (3 枚でも) 何か 1 の代でビッドしておけば,とりあえず フォーシングです。
    13+ pts の手で,是非ともフォーシング・レイズを伝えたければ,クリス-クロスというコンベンションがあります。 でも,こんなものを覚えていては,先へ進めません。


1 〜 1 オープンに対する 2NT 応答

  1. レスポンダの 2NT の意味が 一定でないらしくて,困ることがあります。

    ―― これには,いきさつを知っておくと よいでしょう。
    話を昔に戻すと,4 枚メジャー・システムの時代には,1 の代の スート・オープンに対して

    [A] 13〜15 HCP  2NT
     16〜18 HCP  3NT
    と答えるのが普通でした。 メジャー / マイナーの両方のオープンに共通していました。もちろん, ノートランプを志向するビッドです。
     ずいぶん余裕のあるビッドですね。この [A] を フォーシング・ノートランプ応答 (Forcing Notrump Response) と言います。
    いまでは,殆ど使われていません。
     ただ,NT をビッドして答えるときの考え方は,メジャー・オープンとマイナー・オープンでは,だいぶ違うので, 分けて考える必要があります。

  2. それでは,メジャー・スートのオープン (1, 1) の場合には ?

    ―― 2NT,3NT という応答は 使う必要が無いので 使いません
     切り札のサポートが無くて,10+ HCP の手の 場合には,どれかの新しいスートをビッドできます。
     急いで NT を ビッドする必要は ありません。
    パートナーの切り札が 6+ 枚のことも ありうるので,ゆっくりビッドして 二人で最適のコントラクトを見つけるように努めます。
    もちろん,その結果が 2NT とか 3NT になることは ありえます。

  3. マイナー・スートのオープン (1, 1) の場合には ?

    ―― マイナー・スートの場合には 考え方が変わります。
    たとえ,オープナーの または が長いとしても,(そして自分にそれのサポートがあったとしても)  5 の代に行くよりは,3NT を目指します。
     したがって,メジャー・スートが両方とも 3 枚以下で, しかも NT 向きの手の場合に,NT をビッドすることを考えます。
     その場合に 2 通りの流儀があります。
    さきほどの [A]

    [B] 11〜12 HCP  2NT ( 10 HCP は不可 )
     13〜15 HCP  3NT
    この 2 通りです。
    [B] を リミット・ノートランプ応答 (Limit Notrump Response) と呼びます。
     5 枚メジャーのシステムでは,全体としてぎりぎりのビッドする傾向にあり,現在では [B] が事実上の標準として使われています。
     ただし,SAYC は 1987 年に [A] を標準として採用したので,今でもそれに固執する本や ソフトウェアが散見されます。

  4. 上に 「10 HCP では不可」と書いてありますが,10 HCP のときは 1NT ですか ?

    ―― はい。1 の代のマイナー・オープンに対して
        メジャー・スートがどちらも 3 枚以下で,
        6〜10 HCP のバランス・ハンド.
    の場合,レスポンダは 1NT をビッドします。
    (ただし,1 オープンの場合には,8〜10 HCP で 1NT).

  5. オンラインのブリッジで,[A][B] の どちらか分からなくて困った場合には, どうすればいいでしょうか ?

    ―― その場で,その 2NT は 「強い/弱い」のどっち ? とチャットで訊ねる人もいます。
     1 つの対策として,1 回目のビッドに 2NT を使わないこともできます。
    2NT をビッドできるような手では, 新しいマイナー・スートをビッドできるのが普通なので,そうビッドしておいて ( 1 回フォーシング),次回に本来の NT をビッドすれば,誤解は生じません。

  6. A 7 2
    A 8 3
    K 9 8
    K 7 6 5
    ( 14 HCP )
    NorthEastSouthWest
    1 パス ?
    [この場合には ? ] そうすると,こんな手の場合に もしもパートナーが 1 オープンしてきたら, 何をビッドするのですか ?

    ―― ここでの自然なビッドは 3NT です。
    今では  3NT をビッドしても,[A] 16〜18 HCP だ と誤解する人は,まず いないでしょう。 そんなに良い手は,めったに来ないからです。
     でも 安全を思うなら,3 枚のダイヤモンドで 1 を ビッドします。
    そして 次回に 3NT をビッドすれば,絶対に 誤解は起こりません。

     ついでに ここで 大切なことを 1 つ付け加えましょう。
     ブリッジのビッドの本には あまり書かれていませんが

    どちらがディクレアラーになる方が有利か
    ということです。
     レスポンダが [B] 2NT を ビッドすると,コントラクトが NT に決まった場合に, 弱い手のレスポンダが ディクレアラーになる。それは 損です。
     なるべくなら オープナーのために NT を 残しておくのが賢明です。
     もちろん,オーバーコールが入った場合には,そんなことは言っていられません。

  7. リファレンス (1,1 オープンでのリミット・レイズと 2NT 応答)
    1. [A] F. Gitelman: "ブリッジ入門" (無料ソフトウェア, 1999, JCBL/ACBL, 荻原節子訳).
    2. [B] David Lindop: "What's Standard ?" (2005) [PDF],
        #14, Minor Suit Openings and Responses.
    3. [B] Audrey Grant: "ACBL ブリッジ入門講座" (1987, JCBL/ACBL) ビッド編,第 4 課.
    4. [B] Wayne Flournoy & Anna Marsh: SA-YC OKbridge-Style Simplified,Part 1, Responses/Rebids to 1 of a Suit Opener.
    5. [B] Bridge Forum International SAYC Notes, Responding to One of a Minor.


ルール・オブ 23 (2NT ビッドが保証する強さ)

  1. 2NT というビッドがいろんなところに使われて,判断に迷うことがあります。

    ―― 2NT については,メルさんが提唱している「ルール・オブ 23」を知っておくとよいでしょう。

  2. どんなルールなのですか ?
    NorthEastSouthWest
    1NT パス 2NT

    ―― 2NT が使われる最も分かりやすい例は

  3. これなら誰でも知っている。
    15〜17 HCP のオープナーを 8〜9 pts で レスポンダが サポートしています。

    ―― ですから,オープナーは,自分が下限の 15 HCP であっても 合計 23 pts あることを知ります。

  4. なるほど。それで ルール・オブ 23 ですか …。

    ―― はい。
    これ以外にも 多くの場合,2NT をビッドすると, 二人の手を合計して 23 pts を保証することになります。

    NorthEastSouthWest
    1 パス 1 パス
    1NT パス 2NT
    他の例を挙げましょう。

  5. ここでは,10〜12 pts のバランス・ハンドを持つレスポンダが,13〜15 pts のオープナーに対して,
       「上限ならば 3NT に行って下さい」
    と言っている。ここでも,合計 23 pts ありますね。

    NorthEastSouthWest
    1 2 2NT
    ―― はい。
    オーバーコールが入っても,これは同じです。
    たとえば,

  6. ここでは,レスポンダの 2NT が の ストッパと 10 pts を保証しているから,合計して 23+ pts あります。

    ―― 上には分かりやすい例を挙げましたが,
       2NT = 23 pts,
       3NT = 25 pts
    これを覚えておくと ビッド経過が複雑になった場合にも対処できるでしょう。

    NorthEastSouthWest
    1 パス 1 パス
    3
    それから,また,この 23 という数字は,3 の代の スート・コントラクトに必要な強さでもあります。
     実は 最近 (2012年), BridgeGame25 という ソフトウェアを自作しました。 それによると,ルール・オブ 23 は 統計的に見て かなり良く成り立ちます。
     このソフトウェアは,ペアの点数を横軸に取り,コントラクトが成功する確率を グラフに描きます。2NT の成功確率は 23 HCP で 68% です。
    一方,3 の代のスート・コントラクトは,23 pts (ダミー点などを含む) で 62% です。
     この2つの曲線の比較から,3 の代のスートと 2NT がほぼ同程度の強さを表すことが分かります。

リファレンス
   Mel Colchamiro:
  "How You Play Like an Expert" (2007), Chap 9, Mel's Two Rules of 23.


リバース・ビッド (応答が2の代の場合)

  1. リバースの続きですか ?

    ―― はい。

  2. 前回の説明では,オープナーがリバース (逆順の) ビッドをするためには,
    1 トリック余分の強さが必要 ということでしたね。

    ―― はい。その通りです。

  3. [2の代の応答] そのときの説明では, レスポンダの応答が 1 の代でした。
     もしも,レスポンダが 新しいスートを 2 の代で ビッドしたときは, どういうことになるのでしょうか ?
    YouLHOPardRHO
    1パス 2パス
    2?
     たとえば,オークションが こう進んだとき,ここで私が 2 と リバース・ビッドするには,余分の強さが必要でしょうか ?

    ―― ここで 2 をビッドしたくなるのは,たとえば こんな手のときです。

    [1]  A Q 9 2
    A Q J 6 2
    A 10
    9 3
    ( 17 HCP )
     この手 [1] は十分強くて (どの Ace を抜き取っても オープンできるので),余分の強さがある。 したがって,問題なく 2 をビッドできます。
     ここでは,レスポンダが既に 2 の 代でビッドして 10 pts を保証しているので,2 は ゲーム・フォーシングです。
    このあと,互いにビッドを続けて,最適のゲームを見つけます。
    場合によっては,スラムが見つかるかも知れません。
    [2] Q 9 7 2
    A Q J 6 2
    A 10
    9 3
    ( 13 HCP )

     けれども こちらの [2] には,余分の強さがありません。 したがって,この手で 2 をビッドしてはいけません。

  4. ここで,何をビッドすれば … ?

    ―― ここでは (復習)
      [2‐1]  もしも クラブにストッパがあれば,2NT をビッドします。
      [2‐2]  ダイヤモンドが 3 枚あれば,3 をビッドします。
    今は そのどちらも無いので,仕方ありません …
      [2‐3]  ハートが 5 枚ですが,2 をビッドします。
    もともと 1 オープンに対して (そのすぐ下のスートで) 2 と答えるのは, 最低限の手を持ったオープナーを 厳しい状況に追い込むので, ハートが 5 枚の可能性も,レスポンダは 頭に入れている筈です 。

  5. そこのところが,ちょっと分からない。
    前回の説明では,リバースするとコントラクトが危険な代になってしまう … だから,リバースしてはいけない … この説明は,よく分かります。
     でも,今は レスポンダが 2 の代でビッドして,10 pts を保証している。 だから,合計して 23 pts くらいある。23 pts あれば,ルール・オブ 23 により,2NT や 3 などの コントラクトは 安全にメイクできるはず …。
     それなのに,リバースしてはいけないのですか ?

    ―― 確かに,23 pts というのは,2NT ができるための 重要な数字です。
    だから,ここで 2 をビッドしても, 問題は無いように見える。
     ところが,ここで考えなければならない点は,コントラクトの種別未だ 確定していない,ということです。
     先ほどの例の強い方の手 [1] と比較してみましょう。
    [1] の場合には,2 と リバースした後,3 の代のビッドを使って, 最適のコントラクトを見つけられます。 ゲームに行けるだけの強さがあることが 分かっているので,二人とも安心してビッドできます。
    ゲームをビッドするまで,どちらも パス しないからです。
    場合によっては,スラムがあるかもしれません。
     ところが [2] の場合には,ゲームがあるかどうかは (少なくとも オープナーには) 分からない。下手をすると, 高すぎるコントラクトになってしまって ダウンすることもありえます。
     ですから,こういう 2 種類の (強さが 1 トリック) 異なる手を区別してビッドすべきです。
     ゲームがあることが確実な手では,(スラムも視野に入れて) 最適のコントラクトを見つけることが大切です。 でも,パートスコアで終わる手なら,(ビッドの回数が少ないから) 最適の コントラクトを見つけることは難しいし,そもそも,その必要がありません。

  6. そうすると,[2] のような手では,2 をビッドして,パートナーに判断を任せるのが良いと ?

    ―― はい。その通りです。
    あなたが 2 をビッドして,もしも レスポンダの手がほんとの下限でなければ, 手の強さを伝えるビッドを 何か返してくるでしょうから,それからでも 3NT などを見つけることはできます。

  7. 似たような質問ですが,さきほどの 2 のところで 3 を ビッドするにも, やはり,余分の強さが必要ですか ?

    YouLHOPardRHO
    1パス 2パス
    3?
    [3] 6 5
    A K 9 5 4
    8
    A J 8 5 4
    ( 12 HCP )
    ―― えーっと,オークションは,こんなふう。
    これを,「3 の代のリバース (Three-Level Reverse)」とか「高位のリバース (High-Level Reverse)」と呼びます。
     このようにビッドしたくなるのは,ハートが 5 枚 とクラブ 5 枚で, たとえば こんな手です。
     ここで Ace を 1 枚抜くと,オープンできる手ではないので, 余分の強さはありません。
     したがって,3 をビッドしてはいけない。
    2 を ビッドするしかありません。

  8. せっかく 5‐5 の 2 スートの手なのに, それを示せないんですね。

    ―― はい。残念ながら 示せません。
    それを 3 の代で示して 意味があるのは,ゲームがある場合です。
    それよりも,あなたがここで 3 をビッドしたとき, それが
        (1)  余分の強さを示している.
        (2)  下限の場合もありうる.
    のどちらであるかが分からないと,レスポンダは,自分が下限 (10 pts) のときに とても困ります。
     もしも (1) だったら, ゲーム・フォーシングだから,レスポンダは 最適のゲームが見つかるように ビッドを考えます。 絶対に パスしません。
     けれども (2) だったら, 下限の手を持つレスポンダは,3 を パスも視野に入れて考える。
     この両方に対応することは,不可能です。


1‐2 は要注意

  1. YouLHOPardRHO
    1パス 2パス
    2
    それでは,ビッドが こう進んだ場合,このリバース・ビッド 2 は,余分の強さを示すことになるでしょうか ?

    ―― 1 オープンに対して,2 という返事,下限の手を持つオープナーにとっては厳しいですね。
     この場合も,例外ではありません。2 も 2 も, どちらも強さを保証する … そう約束しておけば,オープナーが リバースできる強さを持っているとき, レスポンダが下限 (10 pts) でも ゲームに 辿り着けます。

  2. でも そうすると,弱い手のオープナーは,場合によって ビッドが難しくなりますね。

    ―― はい。強い手では ゲームを確実にビッドすること大切なので, その代償として,弱い手の場合には 不自然なビッドも避けられません。
     弱い手のオープナーは,2, 2NT, 3 の どれかを 無理に当てはめます。

    [4]  10 7 6
    A J 7 3
    A Q J 10
    J 2
    ( 13 HCP )
    [5]  A Q 7 6
    A J 7 3
    J 10 8 4
    6
    ( 12 HCP )
     たとえば [4] では,スペードのストッパ無しで 2NT をビッドするか,あるいは,4 枚の良いダイヤモンドで 2 をビッドします。
    ここで 2は,余分の強さと 4 枚+ 5 枚を示すので, ビッドできません。
     また [5] では, が 1 枚しかありませんが,
    仕方ないので 2NT をビッドします。

  3. 確かに,不自然なビッドですね。

    ―― はい。これには,レスポンダも 少し責任があります。

  4. ?

    ―― 1 オープンに対して 2 をビッドするときには, 上のようなことを事前に よく考える必要があります。 1‐2 は,特に要注意です。

    [6]  10 3
    A 8 4
    8 5 2
    A K 10 8 4
    ( 11 HCP )
    [7]  7 3
    Q 10 8 2
    J 3
    A K 10 8 4
    ( 10 HCP )

     たとえば,レスポンダの手が [6] だったら,クラブ 5+ 枚で 10+ pts の手であり,2 以外に ビッドのしようがありません。
     でも,クラブ 5+ 枚で 10+ pts だからというので,1 に 対して いつでも機械的に 2 をビッドすると,オープナーを苦しめることがあります。
     右の [7] ならば,1 オープンに対して 2 ではなしに,4 枚のハートで 1 をビッドすべきです。

  5. でも そうすると,5 枚のクラブと 10 pts を示せない。

    ―― はい。クラブを示せません。
    レスポンダの手 [7] は,2 回目に 2 を ビッドできるような強い手ではないので,1 回目に 1 をビッドすることが 肝心です。

  6. ということは …,2 回目に 2 をビッドできるくらい強い手ならば,1 回目に 2 をビッドして よいということ ?

    ―― はい,そうです。
    正確に言うと,それだけの強さがある場合には,
       「最初に 2 をビッドしてよい
    ではなくて,
       「2 から ビッドすべき
    です。

    [8]  7 3
    Q 10 8 2
    A 3
    A K 10 8 4
    ( 13 HCP )
     たとえば,レスポンダが この手 [8] を持っていれば, 1 オープンに 2 と応える。
     そして,2 回目にオープナーが 2 のような 弱いリビッドをしても,自分はハートをビッドして,
     「クラブ 5 枚+ハート 4 枚,ゲームがありますよ」
    と伝えることができる。
     これは,レスポンダのリバースであり,ゲームの強さを保証します。

  7. 上の 2 つの手 [7][8] で, 後のほうの [8] が強い手で,2 とまず応えるのが良いことは,分かります。 でも,
      [7] では それだけの強さが無いから 1 を ビッドして,クラブを示すことを諦める.
    と言うとき,その基準はどんなふうに ?

    ―― うーん。だいたいの基準は,自分でもオープンできるかどうかなんですが …。

  8. [9]  7 4 3
    Q 10 8 2
    A 3
    A K 10 8
    ( 13 HCP )
    それだったら,上の手 [8] を少し変えて,この手 [9]持っている レスポンダは,初回に 2 をビッドしてもよいのですか ?  
     この手だったら,2 回目に 2 とリバースすれば, この強さを伝えられる …

    ― いいえ,それはいけません。リバース・ビッドは,確かに
      (1) 余分の強さを持つ.
    ことを伝えます。でも,同時に
      (2) 5 枚 + 4 枚の偏った手である.
    ことも伝える。あなたのリバース・ビッドを聞いたオープナーは,他に適当なビッドが無ければ,3 枚のクラブで 3 をビッドするでしょう。

     1-2 に続くオープナーのビッドについては,
    Kokish の リビッドと 呼ばれるコンベンションがあります。
    これについては,別項をごらん下さい。


ゲーム・コントラクトに到る道筋

2 つの道筋

  1. [どんな2つ ?]  道筋が 2 つあるとは どういうことですか ?

    ―― ブリッジのビッドに慣れてくると,オープン側がゲーム・コントラクトを決めるには, 大まかに分類して,2 つの道筋があることが,おぼろげながら 分かるでしょう。 見やすいように,これを表にまとめると …。

    (A) 種別が確定している場合
     
    (B) 種別が未確定の場合
     
    ↓ 
    (B1) 強さを示す
     
    ↓ 
    (B2) 種別を決める (どこ ? )
     
    (A1) 適切な代を決める
     
    (B3) 適切な代を決める

  2. [A の場合] 表の左側の (A) の場合というのは,簡単ですね。

    NorthEastSouthWest
    1 パス 3 パス
    ?
    ―― はい。これは,ブリッジを始めた人がすぐに覚えます。たとえば,右のような場合です。
     切り札は,既に に 確定しています。ここで,North は適切な代を選択 (A1) します。
    ゲームが無いと思えばパス,あると思えば 4 (またはそれ以外) をビッドします。

  3. [ B の場合] それでは,(B) の場合というのは …。

    NorthEastSouthWest
    1 パス 2 パス
    3
    ―― オークションが右のように進んだ場合が,分かりやすいでしょう。 South の 2 という応答に対して North は,ジャンプして 3 をビッドしました。

  4. この場合,North は 6 枚の良いハートと 16+ pts を示していますね。

    ―― はい。合計 16 + 10 = 26 pts となるので, このジャンプは,ゲーム・フォーシングです。 でも,自分ひとりでは,どういうコントラクトが最適か 決められません。
     3NT,4 あるいは 6 が あるかも知れません。

    そこで とりあえず, (B1) この強さを伝える  ことを優先しました。 ゲームがあることが伝われば,ビッドの往復により,  (B2) 種別を決める  ことができます。 そして,その後で  (B3) 適切な代を決めます  (スラムを含む)

  5. はぁ,なるほど。いままで気がつきませんでしたが,言われてみれば,その通りです。確かに,そういうふうにビッドしています。
    つまり,そういう考え方というか,順序が 大切だということでしょうか ?

    ―― はい。そうです。 強い手の場合には,この順序が大切です。
    種別を探すより前に,(B1) 強さを伝えてしまう。そうすれば,あとは安心してビッドできるので, (B2) 種別を見つけることも,(B3) 適切な代を見つけることも,それからでも遅くはありません。
     強い手だからといって,急いでブラックウッドを使う必要は ありません。

     付け加えると,(B) の方針を徹底して,1,1 オープンで, レスポンダに十分な強さがあれば,最初のビッドで (B1) を伝えるのが,2/1 システムです。


ゲーム・フォーシングの手段

 オープン側がゲーム・フォーシングを掛ける方法として,これまでに
   (1) オープナーの ジャンプシフト
   (2) レスポンダの ジャンプシフト #1, #2.
   (3) レスポンダの リバース
   (4) 第 4 スートフォーシング
の 4 つが出てきました。これらは,オープン側が ゲームを確信したときに 使う重要な手段です。 このうちの (4) は,分かりにくいので 下で改めて説明します。
 オーバーコールが無ければ,ゲーム・フォーシングの手段は,上の 4 つですが, ディフェンス側が介入すると
   (5) キュービッド
も使えるようになり,ほとんど (4) の感覚で キュービッドが使われます。 キュービッドについては,下で別に説明します。

FSF ( Fourth-Suit Forcing,第 4 スートフォーシング )

  1. [2通りの使い方] FSF は,1 回フォーシングとゲーム・フォーシングの 2 通りあるんですか ?

    ―― はい。パートナーとのあいだで,どちらかに取り決めて使います。
    実際には,ゲーム・フォーシングとして使う方が利点が多いので, その使い方がほとんどです。「25 のコンベンション」も ゲーム・フォーシングを採用しています。

  2. [新しいスートは もともとフォーシングのはず]「4 番目のスートだからフォーシング」という意味が 分からないのです …。
    NorthEastSouthWest
    1 パス 1 パス
    1 パス 2
    だって,たとえば,オークションが こう進んだとき,South の 2 は,
      「レスポンダが,新しいスートをビッド」
    したのだから,もともとフォーシングですね。
     たしかに,ここで South は 4 番目の スート (クラブ) をビッドしているけれど,それを わざわざ 第 4 スートフォーシング (Fourth Suit Forcing) と呼ぶのは, 何か特別な理由があるんですか ?

    ―― あります。
    でも,その前に,この 2 の普通の意味は ?

    [South]
    J 8
    Q 10 6 5
    J 10 8
    A K 10 8
    ( 11 HCP )
  3. それは,簡単です。South の 2 は,
       10+ pts と 良いクラブ
    を示していて,1 回フォーシングです。オープナー (North) は, これをパスできません。
    South は,たとえば,こんな手を持っています。

    ―― ところが,FSF というコンベンションを使う場合には,上の手で 2NT をビッドします。そして,2 を もっと良い手のために使います。

  4. [どんな時に使うか] どんな手ですか ?
    [South]
    A J 8
    K 10 6 5
    A J 10 3
    J 8
    ( 14 HCP )

    ―― たとえば,こんな手です。

  5. たしかに 14 HCP の良い手ですが,でも …,2 をビッドしているくせに, ずいぶんお粗末なクラブですね。

    ―― はい。その通りです。
    この 2 というビッドは,クラブについて 何も保証しません。
     もしも,このくらいの HCP があって,クラブがしっかりしていれば, ここで 2 ではなしに,3NT を ビッドできます。
     でも,こんなクラブでは,3NT をビッドできません。
    けれども,もしも パートナーの手でクラブが止まれば,3NT に行くだけの強さがある …。
     こういう状況を パートナーに伝えるために,FSF を使います。
     一般に,

      ゲームに行くだけの強さが十分あって,
    でも,最適のコントラクトが見つからない
    という状況で FSF を使います。

  6. [その後の展開] それで,その後のビッドはどう進むのですか ?

    ―― ゲームを探す努力を 二人のあいだで続けます。
     (1) オープナーの が しっかりしていて,ノートランプが可能ならば, 2NT をビッドします。

    [North]
    K 10 7 4
    J 7
    Q 7 6 2
    A Q 3
    ( 12 HCP )
      
    NorthEastSouthWest
    1パス 1パス
    1パス 2パス
    2NT
        
    [South]
    A J 8
    K 10 6 5
    A J 10 3
    J 8
    ( 14 HCP )
     (2)  が 3 枚あれば,2 をビッドします。
      (もしも 4 枚持っていれば,さっき 2 をビッドしたはずです)
    [North]
    K 10 7 4
    A 9 4
    K Q 7 5
    10 6
    ( 12 HCP )
        
    NorthEastSouthWest
    1パス 1パス
    1パス 2パス
    2
     (3) 上の 2 つのどれにも 当てはまらず, が 5 枚 (あるいは良い 4 枚) ならば,2 を返します。
    [North]
    K 10 7 4
    A 9
    K 8 6 5 2
    Q 6
    ( 12 HCP )
        
    NorthEastSouthWest
    1パス 1パス
    1パス 2パス
    2
    要するに,手の内容をよく伝えるビッド (Descriptive Bid) を考えます。

  7. [更にその後の展開] それで,その 3 つの場合は,その後 どうなるのですか ?
    そこまで聴いておかないと 安心できません。

    ―― (笑) そのまた後の展開ですか ?
     (1) の場合,レスポンダ South は,スラムに 関心が無ければ,3NT をビッドします。このコントラクトは,メイクするでしょう。
     (2) の場合,ハートを 5 枚持って いれば 4 をビッドしますが,今は 4 枚なので,3 で我慢します。
     (3) の場合にも,3 で我慢します。

  8. North East South West
    1パス 1パス
    1パス 1
    [ FSF にならない場合] 右のオークションの場合,South の 1 は FSF になるでしょうか ?

    ―― なりません。
    この 1 は,単なる 1 回限りのフォーシングです。

  9. それでは,ここで South が FSF のゲーム・フォーシングを掛けたいとき,何をビッドすればよいのですか ?

    ―― 2 をビッドします。

FSF/Cuebid の「ビッド練習」

ノートランプのストッパ

 ノートランプのコントラクトを安全に作るためには,
4 スート全部が止まる必要があります。
たとえば A を持っていれば,クラブが 1 回止まります。
このようなカードを ストッパ (Stoppers) と呼びます。

ぼろでも ストッパ ?

  1. 切り札のフィットが見つからなくて,ノートランプをビッドしたいとき,ストッパが必要ですね。 それについてお訊ねしたいのです。

    ―― どうぞ …。

  2. はじめに,簡単なことから …。
    ビッドされたスートには,ストッパがあると考えていいんでしょうか ?

    ―― と言うと ?

    Pard RHO わたし LHO
    1 パス 1
  3. たとえば,オークションが右のように進んだとき,私のビッド 1 は,単にハートが 4 枚あることを示しているだけです。 まったくのボロの (絵札を含まない) 4 枚でも 1 をビッドします。それを パートナーが
        「ハートは,向こうの手で止まる」
    と思い込んで,3NT なんかビッドしちゃったら,とても困る。
     ボロで新しいスートをビッドするときは,いつも 何となく いやな気持ちでビッドしているんです。

    ―― ふーむ。でも,そういう取り越し苦労は,しなくても いいんじゃないですか。 ダウンしたら 運が悪かったと思えばいい …。

  4. えっ !?  そんないい加減なことでいいんですか ?

    ―― うーん。たしかにいい加減かもしれないが …。
    でも,ノートランプの経験を思い出してみて下さい。
    どれかのスートを全部取られたのに,1NT や 2NT がメイクしたという経験はありませんか ?  時には,3NT さえ …。

  5. そうですね。言われてみれば,そういう経験は確かにあります。

    ―― 仮に絵札なしのボロのハート 4 枚を あなたが持っているとして,パートナーが同じようにボロの 2 枚のハートを 持っているとしましょう (NT に行くパートナーは,各スートに少なくとも 2 枚持っています)。そうすると,残りのハートの枚数は
        13 − ( 4 + 2 ) = 7
    となる。7 枚のハートの分布として,最も可能性が高いのは 4-3 の分かれです。したがって,ハートを全部走られたとき 取られるのは 4 トリックです。
    残りの 9 トリックを全部取れば,3NT も無事にメイクします。

  6. ということは,ボロの 4 枚はストッパになっていないけれど,ボロ負けしない保証にはなっている … ということですか。

    ―― はい。そう思います。そういう意味では,あなたの言うボロの 4 枚をストッパに準ずると考えてよいのでしょうね。

  7. でも,ハートの分かれ方 (split) は,4-3 の確率が一番高い (62%) ですが,
    5-2 (31%) とか 6-1 (7%) だってありえますね。

    ―― ありえます。そういう場合には,右オポさんが親切だったら,オーバーコールしてくれる筈です。

  8. なんだか,まだ 腑に落ちませんが …。

    [West]
    A K J 7 5
    10 6 3
    K 3
    J 7 5
    ( 12 HCP )
    West North East South
    1 パス 2 パス
    2NT
    ―― それでも 未だ心配ですか (笑) ?
    この部分を書いたのは 2002 年頃ですが,後に Eric Rodwell さんの 「2/1 講座」(2008 May-June) に 面白い説明を発見しました。
     右の手の場合,ハートとクラブが どちらも ボロの 3 枚ですが,ここで 2NT をビッドする というのです。
    以前はここで (ハートとクラブの両方にストッパが無いので) 5 枚のスペードで 2 をビッドしていたけれど, その後の経験から,2 は スペード 6 枚の場合に限定することにした と書かれています。

  9. ついでに…,ボロでないストッパとは,どういうのが ?

    ―― Jxxx をストッパと考えます。

  10. でも,この Jack は フィネスで巻き上げられるかも知れませんね。

    ―― はい。たしかにその通りですが,そういうふうに細かく気にしていると,ビッドはできなくなってしまう。 一応,これくらいの 4 枚ならストッパと考えてビッドします。
    3 枚以下でしたら,Qxx とか Kx をストッパと考えます。


ハーフ・ストッパ

  1. それでは,Jxx とか Qx は ?

    ―― そういうのを,ハーフ・ストッパ (Half Stoppers) と呼びます。
    完全なストッパを持っていなくても,二人がハーフ・ストッパを持っていると, 合わせて一人前のストッパになるので,ハーフ・ストッパと呼びます。

  2. ふーん。ハーフ・ストッパを示すビッドはあるんですか ?

    ―― あります。でも,ちょっと難しいビッドになるので,下で別に説明します。 パートナーとのあいだで,阿吽 (あうん) の呼吸が必要です。


ストッパを確認するビッド

  1. では,次へ進んで…。こちらの方が本題です。
    ストッパを確認するには,どういうビッドをすればいいのでしょうか。
    何かコンベンションがあるんですか ?

    ―― うーん。FSF (第 4 スートフォーシング) が絡むから,コンベンションということになるのかな。でも,「考え方」と言うのが 適切でしょう。
    場合によってビッドの仕方が変わるので,この区別を理解しておくことが 大切です。

     [1] ストッパを必要とする可能性のあるスートが 1 スートだけのとき,
       そのスートをビッドして,パートナーにストッパの有無を訊ねる。
       これは,不自然なビッドです。これを "One Asks" と言うらしい。
     [2] ストッパを必要とする可能性のあるスートが 2 スート以上のとき,
       自分がストッパを持っているスートを (低い方から) ビッドする。
       これは自然なビッドです。こちらは "Two (or Three) Tells."

  2. さっきのオークションが右のように 進んだとすると…
    PardRHOあなたLHO
    1 パス 1 パス
    2 パス ?

    ―― この状況では,
        のストッパを パートナーが,
        のストッパを あなたが,
    それぞれ持っていると考えられる。ここまでのビッドは,[2] の状況です。

  3. それが,普通の自然なビッドですね。

    ―― はい。自分の手の強さ/長さを示す自然なビッドです。
    ここで,もしも,あなたの手に のストッパがあって,ノートランプができそうだと思えば, をビッドする必要は ありません
    をビッドするのではなしに,直接にノートランプを (あなたの手の強さに応じて,2NT または 3NT を) ビッドします。

  4. [ FSF を使う] それでは,わたしが 13 HCP くらいを持っていて,コントラクトはもったいない。 スペードさえ止まれば 3NT がありそうだ … という場合には ?
    PardRHOあなたLHO
    1 パス 1 パス
    2 パス 2

    ―― その場合に 2 を ここでビッドします。
    これは,上の分類の [1] に当たります。
    これが,第 4 スートフォーシング (FSF) です。
     このビッド 2
        「3NT に行くだけの十分な強さを 私は 持っています。
        でも,スペードが止まりません。
        もしもあなたの手に スペードのストッパがあれば,
        2NT をビッドして下さい。」
    と言っています。
    FSF は ゲーム・フォーシングを意味するので,3NT の強さを保証します。

    PardRHOあなたLHO
    1 パス 3 パス
    ?
  5. では,オークションが右の場合には,どう考えるのですか ?

    ―― リミット・レイズ 3 を受けて,
       「3NT の可能性がある」
    と思えば,上記の [2] に該当するので,二人のあいだで,下から順に ( の順に) ストッパのあるスートを 3 の代でビッドしていきます。
     これで,うまく行けば,3NT が見つかります。 これについては,リミット・レイズの項で説明しました。

  6. うまく行かない場合には ?

    ―― 仕方ありません。4 または 5 を目指します。

  7. ビッドの経過が もっと複雑な場合もあるのでしょうね。

    ―― はい。
    でも,上の [1][2] の区別を理解していれば,対応できるはずです。

  8. [キュービッドを使う] オーバーコールが入った場合には,どういうことになりますか ?
    PardRHOYouLHO
    1 X XX 1
    パス パス ?
    10 4
    A 10 3
    K J 6 4 3
    K J 10
    ( 12 HCP )

    ―― では,そういう例を見てみましょう。
    オークションは,パートナーの 1 で始まりました。
    これを右オポさんがダブル。
    あなたの手は,こんなふうです。
     これを見ると,ダイヤモンドを切り札にして 4 くらいはありそうです。4 枚のメジャー・スートが無く, しかも ダブルの後なので,ここで リダブルしました。 すると左オポさんが 1。 このあと 二人が続けてパスして,あなたがビッドする番です。
    ここで,何をビッドしますか ?

  9. うーん。パートナーは,リダブルした私の手の内容を知りたいと思って パスしたんですね。

    ―― はい。適切なパスです。

    PardRHOYouLHO
    1 X XX 1
    パス パス 2

    ここでは,4 とか 5 を狙うこともできますが, その前に 3NT の可能性を探りたい。さいわい,この手では, がフィットしていて, トリックをたくさん取れます。 も止まる 形で,もしも のストッパをパートナーが持っていれば,3NT ができます。
     そこで,2 を ビッドします。パートナーは,もしも のストッパを持っていれば,2NT をビッドするでしょう。

  10. こういうビッド経過で,2 というキュービッドは,いつでもそういう意味になるのでしょうか ?

    ―― 2 通りの解釈がありえます。
       [1] 3NT を狙っていて, のストッパーの有無を訊ねている。
       [2]  を切り札にしてゲーム (またはスラム) を狙っている。
    上の手の場合には,どちらの解釈も当てはまります。

  11. それで,オープナーとしては,そのどちらと解釈すればいいのですか ?

    ―― とりあえず,[1] と解釈します。
    つまり, のストッパがあれば 2NT をビッドします。

  12. スペードのストッパが無い場合には ?

    ―― その場合には,自分の手の特徴を伝えるビッドを返します。
    キュービッド 2 はフォーシングなので, とにかく何かをビッドします。


ハーフ・ストッパを確かめるビッド

  1. さきほどJxx とか Qx が ハーフ・ストッパだという説明がありました。

    ―― はい。完全なストッパを持っていなくても,二人がハーフ・ストッパを持っていると, 合わせて一人前のストッパになります。

  2. どんなビッド経過で それが問題になるのですか ?
    面白そうなので,聴かせて下さい。
    J 6 3
    Q 2
    A Q 9 3
    K J 8 4
    ( 13 HCP )
           
    YouLHOPardRHO
    1 パス 2 パス
    3 パス 3 パス
    ?
    ―― あなたがこの手を持っていて,1 オープンしました。
    パートナーからの返事は 2 です。
    そこで 3 をビッドしたところ,パートナーから 3 が返ってきました。
    ここで何をビッドするかという問題です。

  3. [レスポンダのリバース] うーん。パートナーは,きっと 強い手を持っているんですね。 たぶん,自分でもオープンできるくらいの …。

    ―― はい。クラブ 5+ 枚,ハート 4 枚の強い手でしょう … リバースしていますから。 (レスポンダのリバースは,前にも説明したように,ゲーム・フォーシングです。) それで,パートナーの 3 の意味は ?

  4. もしも 私がハートを 4 枚持っていて,(でも 弱い手でリバースできないから) 今までビッドできなかったのなら,それをビッドして欲しい …。

    ―― それが 1 つです。
    そのほかに,もう 1 つあります。…,ハートが 4 枚無くても,スペードのストッパを持っていれば,3NT をビッドして欲しい。

  5. [ハーフ・ストッパを示す] そうですね。でも,私はスペードのストッパを持っていない。仕方ないから,ここでは 4 をビッドしますか …。

    YouLHOPardRHO
    1 パス 2 パス
    3 パス 3 パス
    3
    ―― いいえ。確かにスペードのストッパを持っていない。
    でも  Jxx  は ハーフ・ストッパです。
     そこで,ここでは 3 をビッドして,スペードの ハーフ・ストッパを示します.

  6. どうして,ここで 3 をビッドすると,ハーフ・ストッパの意味になるんですか ?

    ―― あなたが,もしもスペードのストッパを
      (1) 持っていれば,3NT をビッドする.
      (2) 持っていなければ,4 をビッドする.
    3 は そのどちらでもないので,ハーフ・ストッパとしか解釈できません。

  7. なるほど…。それで,その後,パートナーは Qx のようなハーフ・ストッパを持っていれば 3NT を ビッドできる … というわけですか。
    そういうビッドがうまくできると,うれしいでしょうね。

    ―― はい。ブリッジが絶対にやめられなくなるでしょう。

  8. リファレンス
      Angust Boehm:Bridge Bulletin, May-June, 2003, "3NT in Depth"
      Barbara Seagram & Marc Smith: "Bridge: 25 Ways to Compete in the Bidding", (MasterPoint Press, 2000) Chap. 23.


5 枚+ 5 枚でのオープン

  1. スペードとクラブがどちらも 5 枚のとき,オープニング・ビッドを 11 の どちらにするか 決まりがあるのでしょうか ?

    ―― はっきりした規則は ありません,…
    というか,どちらに決めても困る場合があります。
    いろんな人がどう言っているかをここで紹介しましょう。
    そして,私の考えを最後に書きます。

  2. 初級者に 1 オープンを勧めるのは,Audrey Grant (ACBL ブリッジ入門講座 5 冊の中のスペードシリーズ) です。
       「5 枚のスートが 2 つあるときには,上のスートでオープンする」
    A J 9 8 4
    K 2
    5
    A Q 9 7 5
    ( 14 HCP )
    という原則をここでも守るように勧めています。そこに出ている例は です。
    初級者には,これが分かりやすくてよいと思います。
    (補足すると,このシリーズの序文には,「このシリーズの技術面は,北米の代表的なブリッジ教師を 調査して決められた」と書いてあります。)

  3. 10 6 5 4 2
    A 2
    3
    A K Q J 3
    ( 14 HCP )
    黒川晶夫:「ブリッジ上達法」は,
    という例を挙げて 1 を勧め「(この場合には) 4 枚, 5 枚と思ってビッドして下さい」と書いています。

  4. Harold Feldheim:「TWO OVER ONE とは何か」は,これを,上の原則を破る唯一の例外だと説明しています。
    A K 5 4 3
    Q
    J 3
    K J 10 4 2
    ( 14 HCP )

    そして という例を挙げ,1 を勧めます。さらに,(なぜか日本語訳では無視されている) 脚注の中で
      「1 が良いというエキスパートもいるが,それでは後のビッドがうまくいかないことが多い」
    と補足しています。その理由は書かれていません。

  5. 小林淳三:「5 枚メジャー基礎コース」は,場合により 2 通りを勧めます。
    A J 8 7 5
    A Q
    3
    K Q 9 6 3
      ( 16 HCP )
    1 オープン.
        
    A K J 8 5
    2
    K Q
    J 9 8 6 2
      ( 14 HCP )
    1 オープン.
    1 をビッドすると クラブをビッドしにくくなることがあるので,クラブを示したいときには 1 をビッドするように勧めます。

  6. HCP によって次のように場合分けすることを Paul Thurston: "25 Steps to Learning 2/1" (Master Point Press, 2002) は 勧めます。
        1  12〜15 HCP
        1  16, 17 HCP
        1  18+ HCP
    ハンド例も理由も書かれていません。

  7. Mike Lawrence の本をひっくり返して何冊も探すと,次の指摘が 1 箇所だけ見つかりました ("The Uncontested Auction", (1990), p.3)。
    J 9 7 5 4
    4
    K 3
    A Q J 6 4
    ( 11 HCP )
    パス.
          
    A Q J 6 4
    4
    K 3
    J 9 7 5 4
    ( 11 HCP )
    1 オープン.

  8. 結局のところ,どういうことが問題なのですか ?

    ―― できることなら 2つともビッドしたいのです。
    16+ HCP あるような手ならば,どちらにしても (リバースできる強さがあり) 両方ビッドできるので 問題ありません。問題は,それ以下の手のときにビッドがスムーズにできるかどうかです。

  9. それでは,13〜15 pts くらいの手だとして,1 オープンした場合には ?

    ―― その場合には,5+ 枚のスペードを持っていることをきちんと伝えられます。
    したがって,スペードでフィットがあれば,問題はありません。
     しかし,クラブを持っていることを うまく伝えられません。
    もしも パートナーからの返事が 1NT とか 2 だったら, こちらのクラブを示すことができる。けれども,2 とか 2 だったら (偏った手なので 2NT をビッドできないので),5 枚で 2 と リビッドするしかありません。
     したがって, の中身を秤に掛けて,(場合によっては のビッドを 諦めて) スペードを 2 回ビッドしても誤解が少なそうな内容ならば,1 をビッドするのが良いでしょう。

  10. それでは,同じく 13〜15 pts くらいの手だとして,1 オープンした場合には ?

    ―― その場合には,オーバーコールが無ければ,2 巡目に 1 をビッドできます。その点は具合が良いのですが, スペードを何枚持っているか … という問題があります。そのような 1 は,4 枚のスペードを示します。 このため,パートナーが 3 枚のスペードを持っているとき,合計 8 枚の切り札があるのに,パートナーには 7 枚としか伝わりません。

  11. 結局,ぼこさんは どちらが良いとお考えですか ?

    ―― 一般には,1 オープンすべきです。
    私の確率計算によると,1 オープンに対して, レスポンダが 3+ 枚のスペードを持つ確率は 54.4 % です。 つまり,2 回に 1 回の割合でサポートを期待できます。
     先行きの不透明なクラブに頼るよりも,この確率に頼るのが良いでしょう。 ブリッジは,確率のゲームですから。


オープン側の競り合い

オープン側のキュービッド …   44‐47.
リミット・レイズで競り合う …   47‐49.
キュービッド・レイズで競り合う …   50‐52.
リダブル …   52‐54.
リダブルのあとは … 54‐55.
競り合いでの リバース …   56.
リオープン … 57‐59.
リオープンのダブル …   58.

キュービッド (オープン側)

キュービッド (Cuebid) とは,一般に,最終コントラクトとは無関係の何か特別の合図 (Cue) をするビッドです。
しかし,狭い意味では,
    相手方のスートを (低い代で) ビッドすること
をキュービッド (俗称: キュー,Cue) と呼びます。
この定義は,オープン側,ディフェンス側に共通しています。
オープン側のキュービッドは,(後に述べる例外,キュービッド・レイズ除いて) ゲーム・フォーシングです。
ディフェンス側のキュービッドは,1 回フォーシングです.
 ディフェンス側のキュービッドについては,節を改めて説明します。
どちらの側にとっても,キュービッドは,非常に鋭い武器です。
  1. [キュービッドは難しい] このあたりが,むずかしい …。ブリッジのビッドは一通りできるようになった積もりですが, でも,キュービッドが出てくると よく分からない …。

    ―― 確かにそういうことは あるでしょう。
    キュービッドは,ブリッジのビッドを学ぶ上での一つの関所だと言えます。

  2. [FSF の延長] どう考えたらいいのでしょう,このキュービッドというのは ?

    ―― ひとつの道筋として,いきなりキュービッドに取りかかるのではなく,その前段階として,第 4 スートフォーシング (FSF) を身に付けるのが良いと思います。
     FSF は,オーバーコールが無い場合に,最適のゲーム・コントラクトを見つけるのに使われます。
     これに対して,キュービッドは,
       「 ディフェンス側が介入した場合に,FSF の代りに使われる 」
    ようなものと考えて,ほぼ間違いありません。
     つまり,FSF の感覚が身に付いていれば,その延長として 自然にキュービッド できるようになる (と,どこかのブリッジ教科書に,多分,書かれている) 筈です。

  3. [例 1] それでは,いつものように,例を説明して下さい。

    [North]
    A K Q
    9 8
    A J 9 7 6 2
    K 10
    ( 17 HCP )
    ―― はい。
    ミニハンドで記録したファイルの中から探してみました。
    あなたは North で この手を持っています。

  4. これは,17 HCP の良い手 !
    セミ・バランス・ハンドなので,1 オープンしましょう。

    North East South West
    1 1 2 パス
    ?

    ―― そこへ East が 1 オーバーコールして,
    パートナーは 2 をビッドしました。
    ここで何をビッドするか … という問題です。

  5. 答はもちろん,キュービッド 2 なのでしょう。
     でも,順序立てて考えると …。
      South の 2 は 10 pts を保証する。
      私の 17 HCP (19 pts) と合わせると,確実にゲームがある。
      カードの枚数は, 3 枚以下 (4 枚ならネガティブ・ダブルのはず)
      4 枚以上,したがって が合計 6 枚くらい。
      切り札の候補は かな。
    でも,パートナーが のストッパを持っていれば,3NT が楽にできる。
    North East South West
    1 1 2 パス
    2
    ―― はい。そこで,ゲーム・フォーシングを掛けて,同時に のストッパの有無を訊ねるのが, キュービッド 2 です。

  6. [その後は] そこで,South は 何をビッドするのですか ?
    North East South West
    1 1 2 パス
    2 パス 2NT
    ―― ハートのストッパがあれば,もちろん 2NT をビッドします。
    South は 1オーバーコールした East の 後ろに座っているので,このストッパについては 有利な状況にいます。

  7. [ストッパが無い場合] もしも South に ハートのストッパが無ければ ?

    ―― ハートのストッパが無ければ,
      4 枚の で 3 をビッド,
      それも無ければ,5 枚の で 3 をビッド
    します。
     後者の場合には 3 を受けて,6 枚の を North がビッドできます。

  8. [介入が無い場合] 上の手で,もしも East がパスした場合には,どういうことになりますか ?
    North EastSouthWest
    1 パス 2 パス
    ?
    ―― その場合のビッドは,ジャンプして 3 です。
    あるいは,3 枚の強力な を 1 枚 ごまかして,2 と リバースします。
     面白いことに,キュービッド 2 は,2よりも 3よりも ランクの低いビッドです。 つまり,結果から見ると,East のオーバーコール 1は,あなたの側を助け 低い代でゲーム・フォーシングを可能にしました。
     こういうことがあるので,オーバーコールは 悪いものではありません。

  9. [例 2] 1つだけでは物足りないので,もう 1つお願いします。

    ―― はい。では,もう 1つ探してみましょう。こんなのがありました。

    NorthEastSouthWest
    1 1 2 パス
    2 パス ?
    メジャースートのオープンです。
    今度は,South に身を置いて,North の手を想像して下さい。

  10. えーっと。
    South にいる私は,3 枚のハートと 6〜9 pts しか保証していない。
    そこへキュービッド 2!
    このキュービッドは,ゲーム・フォーシングなので,North は 20 pts を持っている。 この強さをジャンプシフトで (あるいは,サイドスートのコントロールを) 示そうとすると,4 の代になってしまう。それを 2 の代で伝えています。
    ,なるほど,キュービッドはすばらしい。
    それで,キュービッド 2 を受けて,South は何をビッドするのですか ?

    ―― North はスラムを狙っています。
    ですから,, に A, K を持っていれば,それを 4 の代で示します。
    僅か 6 点しか保証していないので,コントロールは,K でも十分です。
    3 の代でコントロール・キュービッドを始められるので,オーバーコールは実にありがたいものです。
    A も K も無い場合には,3 を返します。


競り合いのビッド,リミット・レイズ

  1. メジャースートでの リミット・レイズは,概ね無事に使っています。
    たとえば,1 オープンを 3 に上げるビッドは できます。
     それで,もしも相手側が介入した場合には,どう対処すればいいんですか ?

    ―― ダブルの場合と オーバーコールの場合を 分けて考えます。
    ダブルの場合にどうするかは,前に説明しましたね。

    Pard RHO あなた LHO
    [A1] 1 X XX
       
    Pard RHO あなた LHO
    [A2] 1 X 2NT

  2. [ダブルの場合] はい。絵札で 10 HCP あれば,3 をビッドするのではなしに,とにかく [A1] リダブル XX。 それで,もしも Jordan 2NT というコンベンションを使っていれば,[A2] 2NT というビッドもある …。

    ―― そうですね。
    リダブルと 2NT を除くと,2 以上の代は,何をビッドしても 9 HCP 以下です。 ダブルに対して,3 は もはや リミット・レイズではなく,9 HCP 以下の弱い手です。

  3. [オーバーコールの場合] ダブルでない場合には,どうするのですか ?

    Pard RHO あなた LHO
    [B] 1 2 3
    ―― 具体的に考えるのが分かりやすいので,オーバーコールが 2 で,オークションが 上のように進んだとしましょう。
     この場合には,オーバーコールが無かったものとしてビッドを考えます。
    つまり,普通に 3 と リミット・レイズできる手ならば, 素直に 3ビッドします。

  4. [使い分ける理由] ダブルと 2 オーバーコールで ビッドの仕方を変えるのはなぜですか ?

    ―― ダブルする RHO [A] は,オープナーと同等 (またはそれ以上) の強さを持っていますが,2オーバーコールする RHO [B] の手は,平均的に見て,オープナー以下だからです。

    [A] ダブルの場合

      テイクアウト・ダブルする人は, 13+ pts の強い手を持っています。
      しかし,あなたが 10 HCP 持っているのなら, 味方に合計 13 + 10 = 23 pts 以上あるので,慌てることはありません.
      あとのビッドをどうするかという問題は残りますが (), この程度のビッド (XX, 2NT) で強さを伝え,後から種別を決めます。
      問題は,あなたの手がそれほど強くないけれども (〜9 pts), を 3〜4 枚 持っている場合です。 このときには,激しく競り合う必要がある。そこで,背伸びして 3 を ビッドします。
      この 3は,オープナーを ゲームに誘う意味ではありません。3をビッドして,アドバンサをビッドしづらくする (邪魔する) ためです。
      
    [B] オーバーコールの場合


      一方,スートでオーバーコールする人の手は,平均的には, オープナーの手より弱い。
      弱い相手に対して,無理な背伸びをする必要はありません。
      レスポンダが 6〜9 pts で 3 枚のスペードを持っているときには, 普通に 2 をビッドします。
      また,レスポンダが リミット・レイズできる強さなら,味方には 13 + 10 = 23 pts 以上あります。 したがって,相手を邪魔する必要は無く (背伸びする必要は無く),レスポンダが普通にリミット・レイズして構わないというわけです。

  5.  2 オーバーコールに対しても,背伸びして 3 をビッドすることが あるんですか ?

    ―― はい。そういうビッドをする人もいます … と言うか,今では,その方が標準です。
    でも,その場合には,リミット・レイズを伝える代替方法 (次項で説明) を 用意する必要があります。
     初級のうちは,3 の意味を
      [A] ダブルに対しては,背伸びビッド (Stretched Bid),
      [B] オーバーコールに対しては,リミット・レイズ,
    として使うのが良いと思います。

  6. [背伸びビッド] その「背伸びしたビッド」というのは,どの位の強さを示すのですか ?

    ―― とにかく,切り札が 4 枚で 9 pts 以下の手です。下限は,人と場合により いろいろです。 目的が「邪魔すること」なので,点数は全く問題ではありません。 切り札の枚数だけに頼って,ダウン覚悟で このようにビッドの代を競り上げるのは,LOTT に基づいています。

    Pard RHO あなた LHO
    1 3 3
  7. [ジャンプ・オーバーコール] オーバーコールが 1 つ ジャンプして 3 のとき,3 の意味は ?

    ―― その場合の 3 には,2 通りの解釈が可能です。
     (1) パートナーを 4 に誘っている本来のリミット・レイズ.
     (2) 実は 2 をビッドする手だが,競り合いになったので 背伸びして 3.

  8. その二つの区別がつかなくては,オープナーは困りますね。

    ―― はい。その通りです。パートナーは困ります。
    でも,これは仕方がない。右オポがジャンプして 3オーバーコールした目的の一つが,それだったのです。
     ジャンプ・オーバーコールして,もしもダブルを掛けられてダウンすれば, かなりのマイナスになる …。その危険を冒してプリエンプトしたのですから,代償を得るのは当然です。
     あなたの側は,自分たちにゲームが無いと思えば,ペナルティーのダブルを掛けることだって できたのですから …。


競り合いのビッド (キュービッド・レイズ)

  1. [リミット・レイズの代替] 参考までに,その「代替方法」というのを教えてください。

    Pard RHO あなた LHO
    1 2 3
    ―― このように,鸚鵡返しに,オーバーコールされたスート () を キュービッドします。
    これが 3 以上を保証します。
    このキュービッドは,ハートについては 何も言っていません。
    これを キュービッド・レイズ (Cuebid Raise) あるいはキュービッド・リミット・レイズ (Cuebid Limit Raise) と呼びます。
     このキュービッドを,よく
    キュービッド = リミット・レイズ以上 (Limit Raise or Better)
    と言います。

  2. [ 1 回フォーシング] そのとき,1 オープナーは どうするんですか ?

    ―― あなたが 3 リミット・レイズしたものと想定して考えます。
    したがって,ゲームがあると思えば 4 をビッドするし,無いと思えば 3 をビッドします。
     このように,キュービッド・レイズは 1 回フォーシングであり,ゲーム・フォーシングではありません。
    これが,さきほど キュービッドの説明の中で挙げた例外です。

     (注) かつては,上のキュービッドは ゲーム・フォーシングでした。
    しかし,競り合いを重視する現代のブリッジでは, キュービッドの格下げが起こり,今では,キュービッド・レイズが普通に使われています。

  3. [一度使ってみたい] キュービッドってなんだか,かっこいいですね。一度使ってみたいです …。

    ―― ちょっと待って下さい。
     キュービッド・レイズは,「25 のコンベンション」で紹介されていますが,いくら評判の高い本でも,こればかりは 初級者にお勧めできません。
     もともと,オープン側は ビッドを有利に進められる状況にあります。
    ですから,リミット・レイズできる手ならば,少なくとも初級のうちは, その強さを素直にビッドするのが良いと思います。その方が,ビッドに慣れるでしょう。

     それに,キュービッドを「リミット・レイズ以上」と取り決めた場合, このビッドそのものは簡単に (安易に) できますが,その後のビッドが難しくなることがあります。
     単なるリミット・レイズなのか,ゲームまであるのか,そのどちらなのかを 上手にパートナーに伝える必要があるからです。

  4. [ゲーム・フォーシング?] それでは,オーバーコールがあったとき,オープン側は,キュービッドをどういう意味に使うのですか ?

    ―― キュービッドは,切れ味の鋭い刃物のようなものです。たまに使うべきところで使います。 そうでないと,かえって怪我をすることがある …。
     キュービッドを,上のように "リミット・レイズ以上" として使う人は確かに多いのですが, それは ちょっと もったいない。これを
          キュービッド = ゲーム・フォーシング
    として使うのが,ブリッジでの本来の使い方です (と,何かの教科書に,多分,書かれている筈です)。こちらの方が,切れ味が鋭い …。

  5. [ちょっと激しい例] どういう違いがあるんですか ?

    PardRHOあなたLHO
    1 2 3 5
    ?
    ―― 例として,こんなオークションを考えましょう。
    真っ赤なビッド経過です。
    パートナーの 1 オープンに 右オポが 2 オーバーコール。 それを あなたが 3 と カッコいい キュービッド・レイズ (ちょっと いい気分)
     ここで,もしも 左オポさんが 5ではなくて パスならば,あなたのキュービッド 3 の意味は あまり 問題になりません。
     あなたがた二人が,好きなようにコントラクトを決められます。3, 4 など …。スラムがありそうなら ブラックウッドも使えるでしょう。
     でも,あなたのその考えは甘かったのです …。
    キュービッドを見た左オポさんは,あなたの側に でスラムがあるかも知れないと思い, ブラックウッドを封じようと (1つの戦術) 5をビッドしました。
     ここで,パートナーは どうしたらいいでしょうか ?
    考えられるビッドは,次の 3つです (フォーシングのパスもありますが,ここでは除きます)
         ダブル,5,6
    もしもあなたのキュービッドが "リミット・レイズ以上" だったら,パートナーは,この中の どれを選ぶべきか判断できません。あなたは 3 以上保証しているけれど,4 まで ハッキリとは保証していないからです。
     しかし,キュービッドがゲームを保証しているのだったら,パートナーは,どれを選ぶべきかを 自分ひとりで判断できます。

     こういうキュービッドは,マイナースートのオープンでも 同様に使えます。

    PardRHOあなたLHO
    1 1 2
    あなたのキュービッド 2 は,
       5+ 枚のクラブと 13+ pts を (したがって,4 を)
       または,13+ pts で 3NT 狙いの手を
       あるいは,それ以外の何かのゲームを
    保証します。 これに対して,パートナーは,自分の手の内容をよく伝えるビッドを考えます。
     こんなに低い代で ゲームがあることが伝わってしまうので, ゲーム・フォーシングのキュービッドは,ほんとうに鋭い武器です (でした)

     ただし,現在では,上のキュービッドをキュービッド・レイズに使うのが普通です.
     したがって,上の 2 は,「クラブでの リミット・レイズ (5 枚のクラブと 10 HCP) 以上」を意味します。


リダブル

  1. パートナーのオープニング・ビッドにダブルが 掛かったとき,10+ HCP の手では リダブルするのが普通ですが, そこでの説明が,
      「リダブルとジョーダン 2NT 以外は,どんなビッドも弱い手を示す」
    となっていました。
     でも,あれは たぶん オープニング・ビッドが 1 だったからで …。
    PardRHOあなたLHO
    1 X ?
    オープニング・ビッドが もしも 1 で,それにダブルが掛かったとき, 私が 1 の代でビッドするのは,どんな強さを示しますか ?

    ―― 1 の代でビッドできる場合には,ダブルが無かったときと同じように考えてビッドします。

  2. たとえば,ここで私が 1 をビッドするのは ?

    ―― 4 枚のスペードと 6+ pts を保証します。10+ HCP のこともありえます。 したがって,

    リダブルとジョーダン 2NT 以外の 2 の代のビッドは,弱い手を示す
    と言うのが正確です。
    また,この 1 は,1 回フォーシングです。
    オープナーは これをパスできません。
    要するに,1 の代の応答は,ダブルが無かったときと同じ扱いです。

  3. たとえば,どんな手で 1 を ?

    K J 10 4
    9 3 2
    A 5
    10 4 3 2
    ( 8 HCP )
    PardRHOあなたLHO
    1 X 1
    ―― もしも こんな手ならば,1 をビッドします。
    これは,ダブルが無かった場合と同じビッドです。
    オープナーがこれをパスできないのも,ダブルが無かったときと同じです。
     ただし,どんな手でも,ダブルが無かったときと同じに考えてよいのではありません。

  4. [選択] と言うと ?

    9 7 4 3
    10 3 2
    K 8 4
    A 9 5
    ( 7 HCP )
    PardRHOあなたLHO
    1 X パス ?
    ―― ダブルが掛かっているので,ビッドの順番は,オープナーまで回ります。ですから,不適当な手ではパスします。
     たとえば,こんな手の場合です。 この手なら,もしもダブルが無ければ,1 をビッドしますね。

  5. はい。

    ―― ところが,いまはダブルが掛かっている。
    右オポは,スペードに良いカードを持っているでしょう。 こういう場合に,4 枚あるからと言って,スポット・カードだけのスペードをビッドするのは無意味です。 ここでは とりあえずパスします。

  6. 9 6
    A J 8 2
    K 10 5
    Q J 3 2
    ( 11 HCP )
    PardRHOあなたLHO
    1 X 1/XX ?
    [リダブルとの選択] それでは, 右の場合に 1 をビッドするのですか ? それとも リダブルするのですか ?

    ―― 11 HCP あるので,リダブルもできるし,1 をビッドすることもできます。 どちらも可能です。

  7. どちらが良いのですか ?

    ―― 左オポがパスしてくれるなら,どちらでも同じです。
    しかし,左オポの手によっては,5 枚程度の スペードで 2 とプリエンプトしてくるかも知れません。

    PardRHOあなたLHO
    1 X XX 2

     とくに,あなたが リダブルした場合には,そういう可能性が高いですね。その場合, あなたのパートナーが 4 枚のハートを持っていても,3 をビッドできず,相手にコントラクトを取られてしまうかも知れません。

     このように考えると,安易にリダブルするよりも,4 枚のメジャースートを はっきり示す方が 有利です。もともと,1, 1オープナーは 4 枚のメジャースートを持っていることがあるので,それを忘れないことが大切です。


リダブルのあとは …

  1. PardRHOあなたLHO
    1 X XX パス?
    [アドバンサのビッド] ところで,10 HCP を持っている私が リダブルしたとき,左オポさんが パスすることはあるのでしょうか ?

    ―― 普通,LHO は 何かビッドします。
    でも,パスすることもありえます。

  2. [一番長いスートを] どんな場合ですか ? 強い手の場合 ? 弱い手の場合 ?

    ―― この状況で,ビッドした 3 人の手の強さを考えてみましょう。
    オープナーは 13 pts,ダブルした RHO も 13 pts,
    リダブルしたあなたが 10 HCP ….
    いずれも,下限の数値です。 したがって,40 から引き算すると,LHO は せいぜい 4〜7 HCP 程度の弱い手です。
     ここで,LHO は 自分の一番長いスートをビッドします。
    でも, 以外は どのスートも似たりよったりということもあります。
    そういうときには,ダブルを掛けたパートナーに ビッドの順番が回るので,無理してビッドせず,パスします。

    PardRHOあなたLHO
    1 X XX パス
    Q 10 6 5
    10 7 6
    6 5 3
    Q 3 2
    ( 4 HCP )
  3. [パスもあり] たとえば,どんな手ですか ?

    ―― こんな手ならば,パスして,パートナーにビッドしてもらいます。

  4. [オープナーのビッド] それで,リダブルがそのままオープナーまで流れていったとき,オープナーはどうするのですか ?
    パスするのですか ?
    それとも 何かビッドするのですか ?
    PardRHOあなたLHO
    1 X XX パス
    パス ?

    ―― 状況を把握することが大切です。
    さきほどの 2つの道筋 を思い出して下さい。

  5. [強さは既知,次は種別] そうでした。強さの通知 (B1) は もう済んでいる。
    だから,(B2) 種別を決める ことを考えればよい。

    ―― はい。その通りです。
     ここでのオープナーの判断は,手の強さではなく,に依ります。
     普通は,最適の種別を決めるために,パスします。
    そして,リダブルしたレスポンダのビッドを聴こうとします 〔このように,待つべきときに待つ という姿勢も ブリッジでは大切です。 何でも自分がビッドして決めようとすると,パートナーシップに響きます〕
     でも,いつでも必ずパスするのではありません。
     (A) 5+ 枚のスートが 2 つある場合には,ここで もう一つのスートをビッドして,レスポンダに 偏った手であることを伝えます。
     (B) スペードが長くて強い場合には,2 をビッドして,そういう あることを伝えます。


リバース・ビッド (2 の代の応答) オーバーコールが入ったとき

  1. [分からないこと] リバースについて,ひとつ分からないことがあります。
    オーバーコールが入った場合です。
    あなたLHOPardRHO
    1 1 2 パス
    2
    A K 8 7
    9 8 6 3
    A 8 7 4
    5
    ( 11 HCP )
    「かずちゃんのブリッジって何?」のホームページで このビッドが 「教えて! ビリー」に載っています。
     ビリーさんは,ここで「リバース・ビッド 2 は特に強さを 示すことにならない」と答えているのですが。

    ―― ビリー (Billy Miller) さんの説明は,「パートナーが 2 の代でもう一度ビッドするよう要求したのですから」となっていますね。

  2. はい。でも,それだけの説明だったら,オーバーコールがあるかないかは関係無いように思うのですが …。

    ―― 当初は私も不思議に思っていましたが,今では,たぶん こういうことなのだろうと考えています。
     2 という応答は,10+ pts を示しているけれど, ゲームを保証しているわけではありません。1 回フォーシングだから,オープナーは何かビッドしますが,レスポンダがそれを パスすることは ありえます。
     ですから,もしも,オープナーが 15〜16 pts 以上の強い手だったら,「強い手だよ」とゲーム・フォーシングを掛ける 必要がある。
     ふつうは,リバース・ビッドが その役目を担います。
     ところが,いまは 1オーバーコールが入ったので,キュービッド 2 がその目的に使える。だから, リバース・ビッドからゲーム・フォーシングの役目を外すこともできる。むしろ,外したほうが,ビッドの自由度が増える。したがって, この場合には,リバース・ビッド 2 は余分の強さを示さない。
     たぶん,こんな説明なんだろうと思います。


リオープン

  1. [リオープン] 上の表題にある「リオープン」とは,どういう意味ですか ?

    ―― 一般に,パス,パス とパスが 2つ続いて,ここでパスするとオークションが終ってしまう … という状況で,
             パスせずに何かビッドすること
    を「リオープン (Reopening) 」と言います。

    あなたLHOPardRHO
    1 1 パス パス
    ?
    ここでは,右の状況での リオープンを考えましょう。

  2. 私が 1 オープンした。
    それに左オポさんが 1 オーバーコール,
    そして,パートナーと右オポさんはパス …。

    ―― ここで,パートナーの手を想像してみると …。

  3. [パートナーの手] パートナーの手は,きっと弱い。
    が 4 枚あれば,6+ pts でサポーとした筈だし,
    5+ 枚で 6+ pts なら,1 の筈 …。
    4 枚で 6+ pts なら,ネガティブ・ダブルの筈 …。
    のストッパがある 8+ HCP のバランス・ハンドなら,1NT の筈です。

    ―― ずいぶん が続きましたが,この状況で考えられるビッドは 何ですか ?

  4. ハンドが無いから,具体的には考えられませんが,
     (1) パス,(2) ダブル,(3) 1NT,(4) 2
    あとは,特別の場合に,(5) 新しいスートを 1 とか 2

    ―― それでは,具体的に考えてみましょう。

    [1]  A 8 5 4
    Q J 10 3
    A 9 6
    K 2
    ( 14 HCP )
    あなたLHOPardRHO
    1 1 パスパス
    パス
    この後に出てくるような手を除いて, 多くの並み (なみ) の手では,パスします。
     たとえば,この手 [1] では,パスします。
    一般に,相手スートに HCP を持つ手では,とくに強い手でない限り,パスが無難です。 相手方も,味方も,切り札のフィットする可能性が低いからです。

  5. [ 1NT は?] ここで,1NT はいけませんか ? 
    バランス・ハンドだし,ハートのストッパがあります。

    ―― いいえ,絶対にいけません。それは,ひとりよがりのビッドです。
    1NT オープンできなかった手を,1NT で リオープンしては いけません。
    パートナーがパスしている状況で,自分ひとりで 1NT をビッドするのは,それ以上の強さ (18+ HCP) を示します。
    「並みの手」だ ということを よく弁える (わきまえる) 必要があります。

  6. [ダブル?] それでは,ダブルは ? 良いハートを持っていますから。

    ―― それも間違いです。
    パートナーの手は,あなたが さっき言ったように弱い。1 が ダウンする可能性は ほとんどありません。

  7. [いつ,ダブル?] では,どんな手でダブルを掛けるのですか ?

    ―― さきほど,パートナーの手が 弱い と決めつけましたが,ネガティブ・ダブルを使っている場合には, ひとつだけ重要な例外があります。

  8. [リオープンのダブル] どんな例外ですか ?

    [パートナー]
    9 4
    A Q 7 6 2
    Q 6 5
    Q 8 2
    ( 10 HCP )
    ―― パートナーがこんな手を持っているときです。
    10 HCP あって,強さが に集中している。
    ネガティブ・ダブルを使っているパートナーは,ここでペナルティーの意味のダブルを掛けられません。ですから,パスします。
    そして,ビッドの順番があなたまで回ってきて,もしも
    [2]  A 8 5 2
    3
    A K 9 8 4
    K 10 3
    ( 14 HCP )
        
    あなたLHOPardRHO
    1 1 パスパス
    X
    こういう手をあなたが持っていれば,念のため ダブルを掛けます。

  9. あぁ,それは面白いダブルですね。
    私のハートが 短くて屑 だから,もしかして,パートナーが良いハートを沢山持っているかも知れない。 そこでダブルですか …。

    ―― その通りです。
    どんなに弱い手でも,オーバーコールされたスートが短ければ,必ず ダブルを掛けます。 このダブルを,リオープンのダブル (Reopening Double) と呼びます。 ネガティブ・ダブルを使っているとき,これは,とても重要なダブルです。
     このダブルをパートナーがパスすると,ペナルティー・ダブルが完成します。

  10. [ 1?] さっきの手 [1] で,1 をビッドするのは ?

    ―― それは,意味がありません。
    パスしたパートナーは,スペードを仮に 4 枚持っているとしても,5 pts 以下ですね。

  11. あっ,そうでした。こんな手でスペード 4 枚を通知しても,意味が無いですね。 では,どんな手で 1 をビッドするのですか ?

    ―― ここで 1 が意味を持つことは滅多に無いでしょうが,

    [3]  A 10 8 4 2
    3
    A Q 9 8 6 3
    10
    ( 10 HCP )
    このように 6 枚, 5 枚の偏った手では 1ビッドします。 2つのスートのどちらがよいかを,パートナーに選んでもらいます。
     また, 5 枚 + 5 枚ならば,2 をビッドして, 同様に選んでもらいます。

  12. では,最後に 2 をビッドするのは ?
    [4]  A 10 8 4
    A 2
    A K 9 8 6 3
    10
    ( 15 HCP )
          
    [5]  K 9 8 4
    2
    A K 9 8 6 3
    10 3
    ( 10 HCP )
    ―― [4] は,6 枚の良いダイヤモンドを持つ強い手です。
    ここでは が短いですが,A は例外であり,ダブルしません。
    2をビッドします。
     また,[5] の場合には,ダブルもありますが,1 がダウンする可能性が低いと思えば,2で リオープンします。



ディフェンス側のビッド

介入する人の気持ち  …   60.
4 枚でのオーバーコール  … 61‐62.
1 の代のオーバーコールは フリーランチ  … 63‐65.
ディフェンス側のキュービッド  … 66‐69.
1NT オープンへの干渉  …  70.
   1NT に対するオーバーコール  … 70‐72.
   1NT に対するダブル  … 72‐16.
ルール・オブ・セブン (プリエンプトに対抗する)  … 76‐79.

介入する人の気持ち

 ディフェンス側が介入する手段は,
     オーバーコールとダブルの 2 種類があります。
これを,介入者の気持ちで分類することもできます。
 (A) ちょっと気軽に介入 (1 の代のオーバーコール,"無料ランチなら")
 (B) まじめに介入 (2 の代のオーバーコール,"私もオープンできる手だ")
 (B')  まじめに介入 (テイクアウト・ダブル,"僕は ダミーでいいよ")
 (C) 本気で介入 (強い手のダブル,"私が ディクレアラーよ")
 (C')  本気で介入 (ルール・オブ・セブン,"プリエンプトを撃退しちゃおう")
 (D) パートナーに弱い手と誤解されちゃ困る (4 枚でのオーバーコール)

オーバーコール (4 枚のスート)

  1. K J 10 7
    10
    A 9 3 2
    A K 10 4
    ( 15 HCP )
    PardRHOあなたLHO
    パス 1 ?
    [ 4 枚でのオーバーコール] 私は,こんな手を持っていました。
    もちろん,1, 1オープンできる手です。
    オポさんが 1 オープンすれば,テイクアウトダブルもできます。
    何かビッドできると思って期待していました。
     ところが,右オポさんが 1 オープンしたんです。 このとき,私は パスするしかないでしょうか ?

    ―― ビッドの標準的な約束では,1 の代のオーバーコールには,5 枚の良いスートを必要とします。 しかし,このくらいの強さの手で,この程度の内容のスペードがあるのなら,4 枚で 1オーバーコールして構いません。
     もちろん,パートナーは,あなたが 5 枚のスペードを持っていると思うでしょう。 この手ならば,そう誤解されても問題はありません。

     ただし,4 枚の場合には,その内容が大切です。
    A または K を頭にして,A K Q J 10 のうちの 3 枚は 必要です。
    4 枚目のカードも,できれば 7 とか 8 とか …。

    1 の代でならば 4 枚の良いスートでオーバーコールを勧めるのは, Lawrence です。 その勧めによると,4 枚スートでのオーバーコールには,次の利点があります。
    • ディフェンスに回ったとき,パートナーから そのスートを打ち出してもらえるので, 2〜3 トリック取れる。(あなたが何もビッドしなければ, そんなに良いスートをパートナーが打ち出してくれる筈が無い)
    • 相手側が,これを 5 枚以上のスートだと思いこみ,警戒心を起こして,3NT に行きにくい。

    Mike Lawrence: "The Complete Book on OverCalls in Contract Bridge", Chap. 2, Overcalling on Four Card Suits, (Devyn Press, 1980).
     これは,オーバーコールのバイブルです。

  2. [条件] 4 枚でのオーバーコールの条件を はっきり言うと,どうなりますか ?

    ―― その条件は,
      (1) 上記の長所に照らして,4 枚の内容が非常に良いこと.
      (2) 自分でもオープンできる手であること.
    です。

  3.  4 枚で 2 の代のオーバーコールをすることは ?

    ―― それは,絶対にいけません。1 の代と 2 の代ではぜんぜん違います。
    4 枚でオーバーコールして良いのは,あくまでも 1 の代の話です。
     それから,2 番目の条件「自分でもオープンできる強さ」が重要です。切り札の枚数が少ないので,強い手が必要です。

    ただし,4 枚でのオーバーコールには,異論があります。

  4. [異論] 4 枚でのオーバーコールは具合が悪いのですか ?

    ―― はい。競り合いでは,切り札の枚数が重要になります。
    切り札の合計枚数が何枚であるかによって, 安全にビッドできる代が決まります。LoTT が保証する「安全な代のルール」です。

    安全な代のルール
    「味方の切り札の合計枚数に相当する代まで 安全にビッドできる」
    このルールによれば,たとえば 味方の切り札が合計 9 枚あれば,9 トリック (3 の代) まで安全にビッドできます。
     今のブリッジでは,このルールに頼って競り合うのが普通ですが,その場合, 切り札の枚数について互いに誤解が生じないように注意しながら ビッドします。4 枚でのオーバーコールは,この誤解を招きます。


1 の代のオーバーコールはフリーランチ

  1. [基準の緩和] 1 の代のオーバーコールの基準というのが,実際には かなり緩いんですね。

    ―― はい。要するに,トリックを取れるだけの強さがあるかどうかが ポイントです。 でも,そのほかに,妨害するという要素が強い …。

  2. [比較] 実は,ぼこさんの このホームページで 1 の代のオーバーコールの例を見て, かずちゃんのホームページのブリッジ教室 に出ている例と比べてみたんです.
    ぼこさんのほうがずっと緩いんですね。「どんどんオーバーコールしちゃえ」っていう感じで …。

    それほど大きな違いはないと思うけど,でも受け取る感じの違いはあるでしょうね。
    ブリッジを始めて間がない人が誤解するかも知れないので,ちょっと脱線気味ですが, この「感じの違い」について説明させて下さい。

  3. [クラシック] はい …。

    ―― オーバーコールのクラシックな基準は,ノンバルの場合
      1 の代では,5 枚の良いスートと 10 pts
      2 の代では,6 枚の良いスートと 12 pts
    です。また,バルの場合には
      1 の代では,5 枚の良いスートと 12 pts
      2 の代では,6 枚の良いスートと 14 pts
    です。
    どちらの場合にも,枚数だけでなく,強さも必要です。
    5 枚 (6 枚) でも その内容が悪ければ,さらに点数が必要です。
    私は,ブリッジを習い始めたときに,上のように教えられました。
    この基準は,今でも変わりないはずです。


  4. [基準の格下げ] ふーん。なんだか,ぼこさんのオーバーコール例と比べると, この基準はずいぶん厳しいように見える。 同じ人が言っているとは,とても思えない …。

    ―― あっ,そう言われても仕方がないか …。

    それはともかく,覚えやすい数字なので,これを基準として頭の隅に入れておいて下さい。 だんだん説明するように,この基準を知っていることは大切だと思うのです。

    オーバーコールの基準の格下げが いつから始まったのかは知りませんが,上に挙げた「バイブル」では,競技ブリッジで良い成績を上げるためには,格下げが必要だということを はっきり 指摘しています。4 枚でのオーバーコールも,その一つの事例です。
     最近では,LOTT (合計トリック数の法則,Law of Total Tricks) の思想が普及したためもあって, ついには,「1 の代のオーバーコールはフリーランチ」とまで言われるようになりました。どんなランチだか知らないけれど,ただでランチが食べられるのなら,食べないのは損,というわけです。
     無遠慮なオーバーコールが まかり通る世の中です。

  5. [競技ブリッジ] はぁ …。

    ―― 競技としてのブリッジの世界では,得点の競争になる。たとえ無理なビッドをしてダウンしても, 相手に作られたときの失点よりも損が少なければ,勝ちです。だから,激しく競り合う。 もちろん,その見極めが単純ではありませんが,でも 激しく競り合う。
     とくに,1 の代はペナルティーのダブルも掛からないし,5 枚のまぁまともなスートが あれば,それをパートナーに伝える利益がとても大きい … これが,フリーランチの考え方です。

  6. [無料ランチのおいしさ] そこまでは,分かります。

    ―― ところが,ここで一つ考えておくべきことがあると思うのです。

    フリーランチをよく食べておられるはずの Larry Cohen さんは,現在 44 才のはずですが, Cohen さんが (あるいは,Marty Bergen さんが) ご自分の家庭でお子さんたちとブリッジを 楽しむ場合を想像してみましょう。
    この場合のブリッジは,もちろん,デュプリケートではなくて,ラバーのはずです。
    いかに LOTT の普及で有名な Cohen さんでも,その場合には,フリーランチの激しいオーバーコールは なさらないでしょう。

    ラバーのブリッジでも,競り合いは もちろん あります。でも,激しい競り合いは, 競技ブリッジに特有のものです。フリーランチのビッドにあまりにも慣れすぎてしまった人は, ラバーのブリッジにとまどうことがあるようです。

     ブリッジは,本来,特定のパートナーとだけ組んでするものではなく,誰とでも 楽しめるのが優れた点です。何かの縁で知り合った 4 人の人が,偶然にブリッジを知っていることが分かって,「では」と言ってブリッジを始めることができます。
     そういう場面で,攻撃的なビッドで失点の山を築き,「これでも得なんだから」と言われると,(それは,確かに理屈の上ではそうなのかも知れないけれど), まわりの人は白けてしまって,全然 楽しくありません。

  7. [楽しさ] そういう場合には,やはり 上の基準になるべく沿ってビッドする … ということですか ?

    ―― はい。
    上の基準は,あまり恥ずかしいダウンをしないための基準とお考え下さい。
    ブリッジの楽しみ方はいろいろあります。競技のブリッジがすべてではありません。 ブリッジを知っていてよかった と思うことが,皆さん これから何度もあるはずです。


キュービッド (ディフェンス側)

  1. RHOあなたLHOPard
    1 1 パス 2
    パス ?
    [ 1 回フォーシング]  オークションが こんなふうに進んで,1 オープンに私が 1 オーバーコールしたところ, パートナーが 2 とキュービッドしました。
    このキュービッドは,どんな意味でしょうか ?
    わたしは, どう考えてビッドしたらいいのでしょうか ?

    ―― うーん。あなたが自分からこんなキュービッドをすることは 未だ無いかも知れませんが, でも パートナーがキュービッドすることはありうるから,どう考えたらよいか 知っておく必要がありますね。

    キュービッドについては,一つ とても大切なことがあります。それは,

    ディフェンス側のキュービッドは 1 回フォーシング
    ということです。
     したがって,パートナーにビッドの番が必ず回るようにしなければいけません。
    オープン側と違って,ディフェンス側には,キュービッド以外にフォーシングのビッドがありません。 したがって,キュービッドは,ディフェンダーにとって貴重な武器です。ここでも,「キュービッド」は ビッドを学習する上で一つの関所と言えます。

    それで,はじめに,あなたの 1 が何を意味するかを確認しておくと …。

  2. [オーバーコーラーの手の強さ] いちおう,5 枚の良い (悪くない) スペード, それに 10 pts くらいの強さです。

    ―― そうですね。あなたは (強い手の) ダブルを掛けていないし,1NT オーバーコールも していない。単に 1 オーバーコールした。
     したがって,手の強さの上限は およそ 16-17 pts です。それを踏まえて,パートナーはキュービッドしています。

  3. [キュービッドの目的] どういう目的で,こういう分かりにくいビッド (キュービッド) をするんですか ?

    ―― 目的は,はっきりしています。
    あなたの手の強さ (最大 16 ‐17 pts) と組み合わせたときに,もしかして ゲームがあるかも知れない …。それを逃がさない ために,パートナーはキュービッドしています。

  4. [キュービッダーの手の強さ] でも,どんな手なのか漠然としていて,全然想像できません。

    ―― パートナーの手の内容は はっきりしませんが,でも その強さは,上の「目的」から考えて 10+ pts です。上限は ありません。

  5. [キュービッダーの手] 具体的には,どんな手を想像すればいいんですか ?

    ―― 手の例としては,

    [パートナー]
    Q 6 5
    A J 8 3
    10 6
    Q J 8 3 ( 10 HCP )
     
    RHOあなたLHOPard
    1 1 パス 2
    パス ?
    このように,切り札 (スペード) 3 枚と 10 pts というのが最も多い。
     これが,キュービッドする最低限の手です。ですから, パートナーのキュービッドに出くわしたときには,とりあえず,上のような手を頭に描きます。
    そして,ビッドを考えます。
     もしも,この想像が良い方に外れていれば,後のビッド経過から分かります。

  6. [キュービッダーが伝えたいこと] 要するに,私のパートナーは,どういうことが言いたいんですか ?

    ―― このキュービッドの意味は,だいたい,次のようなものと思えばよいでしょう。
      「私は,10 pts 以上のそんなに悪くない手を持っています。でも,どういうコントラクトを目指せば よいのか分かりません。あなたの手によっては,3NT が最適かも知れません。6 があるかも 知れません。2 で終わるかも知れません。私一人では判断できません。 ですから,あなたの手の内容をもっと教えて下さい。」
     という意味です。

  7. [最低限の手の場合] 「手の内容を教える」とは ?

    ―― あなたの手が,はじめのビッド (1) で伝えた内容の通りであって,それ以上付け加えることが無い場合には,2 をビッドします。
     たとえば,10 HCP で 1 オーバーコールしたこの手の場合には,A を持っていますが,下限の手なので,2 をビッドします。

    [1] [あなた]
    K Q 10 6 5
    10 8 2
    7 3
    A J 4 ( 10 HCP )
      
    RHOあなたLHOPard
    1 1 パス 2
    パス 2
    したがって,
        キュービッド 2 は,最悪でも 2 を保証する
    とも言えます。 このことを,「2 までフォーシング」と表現します。
     かなり多くの場合,パートナーは この 2 をパスしてケリを付けます。

  8. [良い手の場合] わたしの手が下限でない場合には ?

    ―― スペードが強い手の場合には,パートナーの手を 10 pts と仮定して,あなたの点数と合わせて できるコントラクトをそのままビッドします。
     しかし,スペード以外にも特徴があって,しかも良い手 (13+ pts,オープンできる手) の場合 には,直ちにスペードをビッドせず,その特徴を伝えます。

  9. [いくつかの例] 例を挙げて説明して下さい。
    [2][あなた]
    A Q 10 6 5
    K J 7
    3
    A 10 8 4 ( 14 HCP )
    RHOあなたLHOPard
    1 1 パス 2
    パス 2
    ―― 2 をビッドします。自分でもオープンできる強さがあります。
    初回にテイクアウト・ダブルを掛けることもできましたが,5 枚のスペードを重視して 1 オーバーコールしました。
    [3][あなた]
    A Q 10 6 5
    Q 9 4
    K Q 3
    10 7 ( 13 HCP )
    RHOあなたLHOPard
    1 1 パス 2
    パス 2NT
    このように,オープナーのスート (ダイヤモンド) にストッパがある 13 HCP のバランス・ハンドでは,2NT をビッドします。
     パートナーは, のストッパがあれば,パスするか 3NT に上げるでしょう。 ストッパが無ければ に戻すでしょう。
     オーバーコールした手なので, 以外のストッパは 不要です。
    1 オープナーは,あなたの右側という好位置に座っています。
    [4][あなた]
    A Q 10 9 6 5
    K 7
    3
    A 10 9 4 ( 13 HCP )
    RHOあなたLHOPard
    1 1 パス 2
    パス 3
    13 HCP で 6 枚の良いスペードがあるこの手では,3 をビッドします。
    パートナーは,下限の手でなければ,4 に上げるでしょう。

    [5]  [パートナー]
    Q 10 6 5
    A J 3
    J 6
    K 9 5 2
    ( 11 HCP )
  10. [リミット・レイズに相当する手] そうすると,パートナーは, 普通に リミット・レイズするような手でも,2 と キュービッドするのですか ?

    ―― はい,そうです。たとえば, この場合,1 に対して,3 では なしに 2をビッドします。

  11. [ 3 の代でプリエンプト] では,どういう場合に,パートナーは 3 をビッドするのでしょうか ?

    RHOあなたLHOPard
    1 1 パス 3
    ―― 3 は,プリエンプトの目的に使います。
    スペードが 4 枚の弱い (〜9 pts) 手で,3 とプリエンプトします。 上に説明したように,このとき,キュービッド 2 は,本来の 3, 4 以上の いろんな場合を含む幅広いビッドになります。


1NT オープンへの干渉

1NT オープンへのオーバーコール

  1.  1NT オープンにオーバーコールするとき,どう考えるのですか ? 
    スート・オープンにオーバーコールするときと,何か違いがありますか ?

    ―― 1NT オープンする人は,15〜17 HCP の絵札を持っています。
    HCP は全部で 40 ですから,残りは
        40 − (15〜17) = 23〜25 HCP
    しかありません。ですから,あなたがどんなに良い手でも,あなたの側にゲームの可能性は 殆んどありません。
     そこで,できることと言えば,相手側のビッドを妨害すること,あるいは,パートスコアのコントラクトを勝ち取ることです。

     ただし,不用意にオーバーコールするのは危険です。なぜなら,レスポンダは 7 pts くらい持っていると,あなたの オーバーコールにダブルを掛けるからです。
     したがって,ダブルを掛けられてもあまり大きくダウンしないように, しっかりしたスートを持っていることが必要です。

  2. 何点くらいでオーバーコールできますか ?

    ―― 7 HCP でオーバーコールすることもあるし,14 HCP でオーバーコールしないこともあります。 HCP の多さよりも,トリックを取れるスートを持っていることが大切です。
    絵札 (および中位のカード) が 特定のスートに集中していて,シングルトンやダブルトンには屑札だけが あるような形です。
     この条件は,2 の代のオーバーコール一般に当てはまる条件ですが,1NT にオーバーコールするときには 特に重要です。なぜなら オープナーが強い手を持っているところへ 2 の代で割り込むからです。

  3. 例を挙げると …。

    [1]  9 7 6
    Q J 10 8 5 4
    A 10 8 3
     ―
    ( 7 HCP )
    NorthEastSouthWest
    1NT 2
    ―― こんな手 [1] ならば,ノンバルのとき,1NT に 2 オーバーコールします。
    わずか 7 HCP ですが,非常に無駄の無い形です。
     もちろん,ハートとダイヤモンドに さらに絵札があれば,言うことはありません。

    [2]  6
    A Q 10 9 8 6 3
    J 6
    A 7 5
    ( 11 HCP )
    もっと例を挙げると,…
    [2] は,交流ラウンジで実際に見られた手です。

  4. 少なくとも 6 枚の良いスートが必要ということですか ?

    [3]  K Q 10 9 4
    A J 9 8 3
    6 4
    7
    ( 10 HCP )
    ―― はい。ただし,6 枚のスートが無くても,代りに 5 枚の 2 スートがあれば, それでも構いません。
     たとえば [3] なら,1NT に 2 オーバーコールします。 分かりやすく言うと,マイケルス型 (アンユージュアル NT 型) の手です。

  5. ジャンプしてオーバーコール (プリエンプト) することもあるんですか ?

    ―― はい。あります
    さきほどのハート 7 枚の手 [2] は Ace が 2 枚あって,相手側が 3NT をビッドしてもダウンする 可能性が高いので,2 で止まります。

    [4]  6
    A Q 10 9 8 6 3
    J 6
    7 5 2
    ( 7 HCP )
    NorthEastSouthWest
    1NT 3
     ところが A が無い [4] では, 相手が K のストッパ 1 枚で 3NT を メイクする可能性があります。
    そこで,1NT に 対して直ちに 3 とジャンプしてプリエンプトします。これにより,レスポンダのビッドを牽制します。

  6. バランシングの位置では,少し弱い手でもオーバーコールしてよいのでしょうね ?

    ―― いいえ。その点は普通と違います。
    パートナーの 1NT オープンにどう答えたかを思い出して下さい。
    オークションが

    NorthEastSouthあなた
    1NTパスパス?
    と進んだとき,South は どんな手を持っていますか ?
    0 pts ということも ありえますが,7 pts でもパスします。
    したがって,右オポが パスしたからといって,油断はできません。
     おまけに,15〜17 HCP のオポは,あなたの左側に坐っています。この位置関係はあなたにとって不利です。
    ですから,この場合だけは普通と逆です。
     B 位置では,良い手でないと 1NT へのオーバーコールは危険です。
     「B 位置で King 1 枚を借りた積もりでビッドする」というのは,スート・オープンに限ります。

  7. リファレンス:
     Barbara Seagram & Marc Smith: "Bridge: 25 Ways to Compete in the Bidding" (Master Point Press, 2000) Chap. 12.


1NT オープンへのダブル

  1. [ D 位置でのダブル] 1NT オープンをダブルするのは,テイクアウトですか ? それとも,ペナルティーですか ?
    NorthEastSouthWest
    1NTX

    ―― 標準のビッドでは,このダブルは ペナルティー・ダブルです。

  2. どんな手でダブルを掛けるのですか ?

    ―― 1 の代のペナルティーですから,とにかく良い手です。
    これには,2 種類があります。
       (A) 14+ HCP の強さで,確実に 7 トリックを取れる手.
       (B) 17+ HCP のバランス・ハンド.
    15〜17 HCP のオープナーに ペナルティー・ダブルを掛けるのですから,バランス・ハンドだったら,それ以上の強さが必要です。

  3. (B) は分かりますが,(A) は具体的に言うと …。

    6
    K Q J 10 8 6
    A 3 2
    A 7 5
    ( 14 HCP )
    ―― こんな手です。
    このように,確実にダウンできる手でダブルします。

  4. これなら,確実に 7 トリック取れますね。しっかりしたスートのほかに,2 スートにストッパが必要なんですか …。

    ―― はい。1 の代のコントラクトは,7 トリック取ればメイクします。
    ディクレアラーは,A で 1 トリックと 何か 2 つのスートだけで 6 トリック取ってメイクすることも 十分ありうるので, こういう手でないとペナルティーのダブルは掛けられません。

  5. ずいぶん厳しい条件なんですね。1NT にダブルを掛けるというのは …。

    ―― はい。ダブルの意味がテイクアウトではなくて,ペナルティーなので。

  6. それで,ダブルを掛けた人のパートナーは,どうビッドするのですか ?

    ―― オークションが

    NorthEastSouthWest
    1NTXパス?
    と進んだ場合です。
     ここでは,ダブルの意味をきちんとつかむことが大切です。
    普通のテイクアウト・ダブルと同じように
       「何かビッドしなくちゃ …」
    と考えては いけません。パートナーは
       (A) 1NT は,確実に落とせます。
    とか
       (B) 私は,オープナーよりも良い手を持っています。
    と言っているのです。
     もしも,(A) の場合だったら,あなたの手とは無関係に パスが正解です。
     また,(B) の場合には,残りの HCP がいくらあるかを数えてみましょう。
    左オポが 15〜17 HCP,パートナーが 17+ HCP です。
    残りは,6〜8 HCP です。
    あなたの手に ほんの少しの HCP があれば,(B) の場合にもダウンは確実です。

     というわけで,あなたの手がバランス・ハンドならば,どちらにしてもパスします。

     かなりのアンバランス・ハンドの場合には,自分の長いスートをビッドすると,パートナーが (B) であれば,良いビッドになります。場合によっては,ゲームがあるかも知れません。
    しかし,(A) だったら,せっかくのダブルを壊してしまいます。

  7. [B 位置でのダブル] バランシングの位置では,パートナーから King を 1 枚借りた積もりでダブルしてよいのですか ?
    NorthEastSouthWest
    1NTパスパスX

    ―― (A) 型のダブルは,B 位置では不利です。 ペナルティー・ダブルを掛ける条件は,むしろ厳しくなります。 この場合,前借りしてダブルはできません。 先ほどの「 1NT へのオーバーコール」と 話は同じです。

     (B) 型では,2 通りの考えがあるようです。
      (1) 14+ HCP のバランス・ハンドでダブル (バランシング・ダブル)。
      (2) 17+ HCP でダブル という条件を変えるべきでない。

     この問題をもう少し考えるために,実例を一つ見てみましょう。

  8. どんな例ですか ?

    Q 6 4
    K Q 10 7
    K Q 9 6
    A 7
    ( 16 HCP )
    A
    J
    A 3 2
    K Q J 10 8 6 5 4
    ( 15 HCP )
    NorthEastSoutnWest
    1NT?
    ―― North が この手で 1NT オープンしました。

  9. これは,普通に 1NT オープンする手ですね。
    16 HCP のバランス・ハンドですから …。

    ―― そして,その左に坐っている East が,この手を持っていたのです。

  10. えっ ! これって,作った手ではないのですか ?

    ―― いいえ。交流ラウンジの教室で実際にあったのです。これが …。
    ここで何をビッドしますか ?

  11. [ダブルとオーバーコールの選択] えーっと。ちょっと頭がくらくらする …。
    何ができるかな …。 を切り札にすると,私ひとりで 9 トリック取れる。
    だから 3 …。
     でも,右オポ (North) の 1NT なら,私がオープニング・リードするから, K を打ち出すと, やっぱり 9 トリック取れて,1NT は 3 ダウンする !

    ―― どちらが得かというと …。

  12. [ D 位置の場合] 私の 3なら, デュプリケートでの得点は
        3 × 20 + 50 = 110 点,
    かりに 4 メイクでも 130点です。
    NorthあなたSoutnWest
    1NTX
    一方,1NTX が 3 ダウンすると,相手がノンバルでも 500 点,バルなら 800 点。
    だったら,断然ダブル! です。

    ―― はい。それで,さっきの注意を繰り返しておくと,ここで,あなたのパートナー (West) は このダブルを 絶対にパスします。このダブルをテイクアウト・ダブルと思い違いして 何かビッドすると,大変な損をします。

    NorthEastSouthあなた
    1NTパスパス?
  13. [ B 位置の場合] それでは,私が West に座っていて 上の手を持っている場合には ?

    ―― この場合にも,3 と ダブル の 2 通りが考えられる。
    さっきの場合との違いは何でしょうか ?

  14. この場合,コントラクトが 1NT だと,オープニング・リードするのが私ではなくて,パートナー … 。もしも,パートナーが を出してくれれば,1NT は 3 ダウンします。でも …。

    ―― ダブルを掛けても, の打ち出しは期待できないでしょう。
    打ち出しスートは,おそらく です。もしも なら,それをあなたの A で取って を打って … A がいつか取れることを期待する。

  15. そうですね。

    ―― でも,その前に, で合計 6 トリック取られてしまうかも知れない。 右オポはパスしているけれど,1NT に対しては 7 HCP までパスしますからね。

    NorthEastSouthあなた
    1NTパスパス3
  16. となると …,この場合のビッドは,ダブルではなくて 3

    ―― はい。


ルール・オブ・セブン (プリエンプトに対抗するビッド)

  1. [もう一つの ルールオブ 7 ] あれっ ! ルール・オブ・セブンというのは …。
    たしか,何トリックだけ ホールド・アップするかっていう …。

    ―― はい,その通りです。
    ノートランプ・コントラクトで ストッパが Ace  1 枚のとき,オープニング・リードから数えて何回 Ace を ホールド・アップ (温存) するかを判断する際に使う規則です。その説明は別にあるので,ここでは省略して,本題に入りましょう。
     実は,ルール・オブ・セブンには,もう一つあります。
     こちらの方は,プリエンプト・オープンに対抗するときに使います。

  2. [プリエンプトに対抗する] そう言えば …,自分がオープンできる手を持っているときに,右オポさんがプリエンプトでオープンすると, とても困ります。自分のスートをビッドすればよいのか,パスすべきなのかと …。

    ―― そうですね。そういうときの判断については,ブリッジの本に ほとんど書かれていません。

  3. はい。ウィーク 2 オープンとか,3 以上の代のオープンに対抗して,どう考えればよいのですか ?

    ―― まず,状況を はっきりさせておきましょう。
    このような場合,オープナーは高々 10 HCP を持っています (もしも 11+ HCP ならば,1 の代でオープンできます)。 そして,ルールオブ 2 & 3 によって 3 ダウン (または 2 ダウン) を覚悟の上でオープンしています。

  4. [状況を把握する] そう …,オープナーのビッドはダウンする可能性が高い。そこへ自分が何かビッドして,それがメイクすれば いいけれど,こちらがダウンしたんじゃ元も子もありません。
     でも,自分ひとりでメイクできるようなコントラクトをビッドするのは とても大変です。コントラクトの代が高くなっていますから …。

    ―― 実際には いろんな場合がありえますが,ここでは,一応,オープナーが上限 (10 HCP) を持っていると仮定しましょう。 そして,あなたが普通にオープンできるくらいの 14 HCP を持っていると仮定します。

  5. ずいぶん,仮定が重なるんですね。

    ―― その通りですが,そうでもしないと 具体的に考えられません。
    このとき,残りの
         40 − ( 10 + 14 ) = 16 HCP
    があとの二人に均等に分かれていると仮定すると,あなたのパートナーに 8 HCP を期待できます。

  6. [ルール・オブ・セブン] なるほど …。だったら,ルール・オブ・エイト !

    ―― それでも いいんでしょうが,普通は,ルール・オブ・セブン (the Rule of Seven) と呼んでいます。つまり,
         「7 HCP くらいは パートナーに期待していいですよ」
    という規則です。

  7. 取れるトリック数にすると …?

    ―― パートナーには,2 トリック強を期待できます。

  8. [7 点前借り] それで,その 7 点の中身は ?

    ―― それは,いろいろありえます。「どういう 7 点 かは知らないけれど,とにかく 7 点 くらいは期待できる」というのが,この規則の言っていることです。
    言いかえると,

    パートナーから 7 点前借りした積もりで
    メイク可能なコントラクトをビッドしましょう
    ということです。

  9. ここでも,「前借り」ですか。ぼこさん,よっぽど手許がお困りのよう(笑)

    ―― はい。2 度目の前借りです。
    この前借りも,紛れもないバランシングです。
    このように,似たもの同士を共通の日常語で括ると,ブリッジのビッドが分かりやすくなります。

  10. [いくつかの例] パートナーに 7 点期待できるとなると,がぜん,プリエンプトに対して,オーバーコールが考えやすくなる。
    いつものように,例を見せていただけませんか ?

    ―― はい。交流ラウンジでの実例をいくつか見てみましょう。

    [1]  A 9 6
    A K J 10 6
    6 5 4
    K 2
    ( 15 HCP )
    NESW
    パス パス 3 3?
     右のように,S が 3オープンしました。ここで
    W が 3 をビッドするかどうか という問題です。

  11. ここでは,どう考えるのですか ?

    ―― N からの打ち出しが だとすると,W の K は勝てるでしょう。
    つまり,この手の 15 HCP (16 pts) は,フルにその性能を発揮していて,無駄が全くありません。 ここでパートナーから 7 点を借りれば 合計 23 pts なので,3 は メイクするでしょう。したがって,ここでは 3 オーバーコールします。

  12. なるほど。自分ひとりでは 3 をビッドできる強さは無いけれど,ルール・オブ・セブンを使えば,ビッドしてよい ということですか …。

    [2]  J
    A K Q J 7 5
    K Q 9
    A J 5
    ( 21 HCP )
    NESW
    3 4?          
    ―― はい。
    次は,この手で 3 のプリエンプトに対してどうするか という問題です。

  13. こんどは,さっきよりずっと良い手です。パートナーから 7 点を借りられるんだったら,E の ビッドは簡単です。 4 ですね。

    ―― はい。その通りです。

    [3]  Q J 9 8 7 5 4
    J
    J 5
    Q 5 2
    ( 7 HCP )
    NESW
    パス 3 3?      

    その次は,この手で プリエンプト 3に対してどうするか という問題です。

  14. さっきとは打って変わって弱い手。
    もしも右オポさんが 1 オープンだったら, 3プリエンプトするところだけれど …。
    パートナーから 7 点を借りても 3 は メイクしそうにないから,パスでしょうか ?

    ―― はい。パスが正解です。
    一般に,プリエンプトで始まるようなボードでは,切り札以外の Q, J には トリックを取る能力がありません。
     3 に対して 3 オーバーコールしたくなる 気持ちは分かりますが,相手はダウン覚悟の決死のプリエンプト,それに対してこちらも同じくダウン覚悟で決死のプリエンプト … と いうのは割りが合いません。
     こちらは,メイクできるコントラクトをビッドするのでなければ,意味が無い。 ここのところをよく理解して下さい。

    [N が S に期待した手]
    A K J 10 6
    A 9 6
    6 5 4
    K 2
    ( 15 HCP )
    NESW
    パス 3 3 パス
    ?
  15. ところで,この [3] で,もしも S が 3 をビッドすると,どうなるのでしょうか ?

    ―― N は,3 をビッドしたあなたの手が [3] のような ボロだとは夢にも思いません。 右のような良い手を想像します。
     そして,ルール・オブ・セブンの精神に沿って ビッドを考えます。 すなわち,貸した点数 7 以下ならパス,10 点あれば 4 に 上げます。簡単ですね。
     実際には,N がそういう手を持っていたので,4 をビッドして 2 ダウンしました。

  16. ところで,ルール・オブ・セブンというのは,プリエンプト・オープンに対してテイクアウト・ダブルを掛ける場合にも,同じように使えるのですか ?

    [4]  8 4
    A 10 7 2
    A Q 6
    K Q 7 6
    ( 15 HCP )
    NESW
    パス 2 X ?      
    ―― はい,同じです。例を挙げましょう。
    2 オープンに対して,テイクアウト・ダブルを掛けるか パスするか,という 問題です。

  17. たしかに,この手は,テイクアウト・ダブル型です。テイクアウト・ダブルには,普通,(ダミー点で数えて) オープンできる くらいの強さが必要だ,と言いますが,プリエンプト・オープンに対しては,どう考えるのですか ?

    ―― 具体的に考えます。
    この場合,もしも S が テイクアウト・ダブルを掛けると,N は 3 の代でビッドします。
     ですから,あなたの手の強さに 7 点を加えたときに,3 の代がメイクできる強さ (23 pts) が必要です。 したがって,ぎりぎりオープンできるくらいの強さでは不十分であり,それより少し強い手が必要です。
     この手は ダミー点を加えて 16 pts あるので 16 + 7 = 23 pts,これは 3 の代のコントラクトにちょうど必要な強さです。 したがって,ダブルします。

  18. リファレンス
    ◇ Mike Lawrence: "The Complete Book on Takeout Doubles" (Magnus Book, 1994) Chap. 5
    ◇ Mike Lawrence: "Counting at Bridge" (ソフトウェア, 2001)

バランシング

バランシングとは …   81‐86.
   King 1 枚 (3 点) の理由 …   84‐85.
バランシング・コールへの応答   …     87.
ダブルへの応答 …   87‐90.
オーバーコールへの応答 …   91‐94.
安全なバランシング …   94‐95.
バランシングと確率 …     96.

リファレンス
  かずちゃんのブリッジ教室:バランシング
  Barbara Seagram & Marc Smith:「25 のコンベンション」Chap. 12 (1999).
  Barbara Seagram & Marc Smith: "25 Ways to Compete in the Bidding" (Master Point Press, 2000).
  Chap. 20, Balancing ― General Principles,
  Chap. 21, Other Balancing Auctions.
  Mike Lawrence: "The Complete Book on Balancing" (Devyn Press, 1983).
  Ned Downey & Ellen Pomer: "Standard Bidding with SAYC" (Master Point Press, 2005) Chap. 18.


バランシングとは

 相手方がオープンして,こちらが介入するのは,
       次の 2 通り,D と B があります。
D の場合の East の位置を「直後位置」(Direct Seat)
B の場合の West の位置を「バランシング位置」(Balancing Seat)
と呼びます。
[D] NorthEastSouthWest
1 ?
    
[B] NorthEastSouthWest
1 パス パス ?
 今までに出てきた介入ビッド (オーバーコールとダブル) は,どれも D 位置でした。
 これに対して,B 位置でのビッドは (ここでパスするとコントラクトが決まってしまうので) リオープン の一種ですが,これ特に 「バランシング (Balancing)」と呼びます。
 バランシングでは,パートナーから King 1 枚を前借りした積もりで (強さを割り増して),ビッドを考えます。
  1. ["バランシング"] ブリッジでは いろいろと カタカナ用語が生 (なま) のまま出てきますが,「バランシング」とは 何のことだか 分かりません。

    ―― 同感です。
    米語では Balancing (釣り合いを保つこと),英語では Protection (保護すること) と呼びます。しかし, 米語/英語を話す人にとっても,分かりにくい術語でしょう。

  2. [要するに?] 「保護」と「均衡」が同じ意味というのは,全然理解できませんが (どっちでも構いませんが), 要するに どういうことなのですか ?

    ―― これには,テイクアウト・ダブルの条件が 深く関わっています。
    大切なことなので,ここで復習しましょう。

  3. [2つの条件] テイクアウト・ダブルの条件は,2 つありました。
     (1) 強さ:13+ pts,上限なし.
     (2) 手の形:ビッドされていない 3 スートすべてに 3+ 枚を持っている.
    そして,2 番目の条件を,絶対に守ること。

    ―― たぶん,もう十分経験なさっている筈です。この 2 番目の条件のために,何もビッドできす,涙を呑んでパスした …。

  4. [涙のハンド] あります。何度もあります。
    A 8 4
    Q 10 7 2
    K J 7 2
    A 3
    ( 14 HCP )

    East に (D 位置に) 座っていて,こんな手 が来ました。
    1 オープンできる手なので内心喜んでいたところ,上の [D] のように, 右オポが 1 オープンした。
     ◇ 5 枚のスートが無いので,オーバーコールできません。
     ◇ バランス・ハンドですが,15 HCP 無いので 1NT をビッドできません。
     ◇ が 2 枚なので,条件 (2) に引っかかって,ダブルできません。
     ◇ 仮にダブル (強い手のダブル) して,West から 2 が返ってきたときに 何かをビッドできる強さ (16+ pts) は無いので,6 枚の切り札で 2X コントラクトになってしまう。
    無い無いづくしで,結局,涙のパス。

    ―― そういう経験があるのなら,それを忘れないことが大切です。
    B 位置でビッドするとき,もしかして, East の「パス」が「涙のパス」かも知れないと …。

  5. [K 1 枚を前借り] 具体的には,どんなふうにビッドを考えるのですか ?

    ―― 分かりやすい言い方をすると,

    パートナー (East) から King を 1 枚 前借りしたつもりでビッド
    します。つまり,オーバーコール/ダブルの通常の基準を 3 pts 下げて,ビッドを考えます。
    「バランシング・ビッド」の一つの訳語として,「前借りビッド」が良いかもしれません。 原義とは違いますが,つまりは,そう考えてビッドします。
     Protection とは,パートナーを 涙のパス から保護することであり, Balancing とは,暗黙のうちにカードの貸し借りを行って,手の釣り合いを均す(ならす) こと = 均衡化 を意味します。

  6. [バランシング・ダブル] ということは,10 pts 程度でテイクアウト・ダブルを掛けてよいのですね。

    ―― はい。B 位置の人がこのように基準を下げて介入すると (知れば)
    D 位置の人は, 安心して「涙を呑む」ことができます。

    A 9 8 4
    Q 10 2
    10 2
    K 8 5 3
    ( 9 HCP )

  7. たとえば,どのくらいの手でダブルするのですか ?

    ―― この手の場合,D 位置では 9 HCP + 1 DP = 10 pts なのでパスします。 しかし,B 位置では テイクアウト・ダブルします。

    [D] NorthEastSouthWest
    1 パス
        
    [B] NorthEastSouthWest
    1 パス パス X
    ただし,B 位置でも,「手の形」の条件は守ります。これは重要です。

  8. [オーバーコール] ダブルではなくて,オーバーコールの場合には ?

    ―― 良いスートがあれば,オーバーコールは容易です。

    [D] NorthEastSouthWest
    1 パス
      
    [B] NorthEastSouthWest
    1 パス パス 1
    スートの内容 (きめ) が良ければ (左),4 枚でも 1 の代でオーバーコールします (1)。
    A 8 5
    Q J 10 2
    J 10 2
    Q 5 3 ( 10 HCP )
        
    K J 5
    9 7 6 5 2
    K 10 2
    Q 8 5 ( 9 HCP )
    また,屑の 5 枚でも 気にしません (右)。 パートナーが良い 3〜4 枚を持っていて パスすることもあるからです。

  9. [清算] それで,North がもしもパスして,ビッドの順番が East に回って行ったとき,East は貸した King 1 枚分を 自分の手から差し引いて考えるわけですね。

    ―― 原則は,その通りです。
    でも,バランシングへの応答は そんなに単純ではありません。
    相手側のビッド状況にも依るからです。
    これについては,節を改めて説明します。

  10. [NT オーバーコール] 1NT オーバーコールも,同じように 3 点引きですか ?

    K 8 5
    A 10 9 2
    K 10
    Q J 8 5
    ( 13 HCP )
    ―― はい。15〜17 HCP が  12〜14 HCP に下がります。
    15+ HCP ならば,(強い手の) ダブルから入ります(注).
     たとえば 右の手の場合 1 オープンに対して,D 位置では 涙をこらえ,
    [D] NorthEastSouthWest
    1 パス
        
    [B] NorthEastSouth\\\West
    1 パス パス 1NT
    B 位置では 1NT をビッドします。
    なお,バランシング 2NT については,下に別記します。

  11. [ 1NT オープンには要注意] 前借りというのは,いつでも してよいのですか ?

    ―― スートのオープンならば,いつでも前借りが許されます。
    しかし,別に説明したように,1NT オープンに対して B 位置でビッドするには,注意が必要です。 誤解の無いように,ビッド経過を書いておきましょう。

    [B] NorthEastSouthWest
    1NT パス パス 2?
        
    [B] NorthEastSouthWest
    1NT パス パス X ?
    これらは,要注意です。

  12. [ 3 点の理由] それで 話を前に戻して,3 点前借りということですが, どうして 3 点なんですか ? 2 点とか, 4 点ではいけないのですか ?

    ―― バランシングを初めて使う人は,「本に そう書いてあるから」というのが良いと思います。
     3 点の理由をブリッジの本で読んだ記憶はありませんが,でも,それは単純です。「涙のハンド」に戻って考えましょう。D 位置の人は, どれくらいの手で涙を呑んだか …。

  13. さっきの手は,14 HCP でした。
    それから,4 枚でオーバーコールした人は,15 HCP で 危うくパスするところでした。

    ―― その人も,オープニング・ビッドが 1 だったら,同じくパスです。
    4-4-4-1 型の強い手は,ビッドがむずかしい …。
     それはさておき,D 位置では 15〜18 HCP バランス・ハンドでストッパ有りなら 1NT オーバーコールするので, 15 HCP あたりが,D 位置で涙を呑む上限です。
     したがって,B 位置の人は,10 pts あれば何かビッドします。さもないと, ゲームを逃がすかも知れない。
     そこで,テイクアウト・ダブルの基準を 13 pts 10 pts に下げます。
    この差 3 点が King 1 枚に相当します。
    オーバーコールの基準も 同じように下げます。

    [B] NorthEastSouthWest
    1 パス パス 2
  14. [ジャンプ・オーバーコール] バランシングの位置でジャンプしてオーバーコールすると,どういう意味になりますか ?

    ―― このジャンプ 2 は,プリエンプトではありません。
    (プリエンプトというのは,ダウン覚悟のビッドです。もしもそんなに弱い手だったら,相手にゲームは無いのだから,B 位置ではパスすればいい。)
    これは,6 枚のスートで 14+ HCP を持つような場合です。
    例を 2つ 挙げておきます。

    A K 8 6 4 2
    K 10 3
    A 6
    7 2 ( 14 HCP )
      
    K 10 9 7 4 3
    A J 4
     ―
    K Q J 9 ( 14 HCP )

  15. [強い手のダブル] そうすると,強い手のダブルは これよりも 強い/弱い ?

    ―― 上の 2 つの例は,バランシングの場合,「強い手のダブル」をするには強すぎます。
     言い換えると,上の手で バランシング・ダブルしては いけません。
    「強い手のダブル」も,King 1 枚くらい条件を下げます。

    6 枚の良いスート,13+ pts
    5 枚の良いスート,15+ pts
    A Q J 8 2
    K 10 3
    A 6
    Q 7 2 ( 16 HCP )
    たとえば,右の手を持っている場合,
     D 位置では,ダブルではなく,1 オーバーコールします。 なぜなら,強い手のダブルには 足りません。
     けれども,B 位置では,ダブルから入ります。
     そして,パートナーがパスしても,スペードをビッドします。
    [D] NorthEastSouthWest
    1 1
        
    [B] NorthEastSouthWest
    1 パス パス X
    2 パス 2 2
    「ビッド練習」バランシング

 (注) [NT,X の選択] ただし,この基準
12〜14 HCP では 1NT,
15+ HCP ではダブルから
は,オープニング・ビッドが 1, 1の場合に使います。
 1, 1オープンに対して, 15+ HCP で (強い手の) ダブルを掛けると,パートナーは 1 の代で応答できるので, そこで 1NT をビッドできます。これは 普通の 1NT オープンと同じ結果を生み 好都合です。
 しかし,1, 1オープンに対して 15 HCP でダブルを掛けると,応答が 2 の代になります。そこから 2NT をビッドするのは,行き過ぎです。したがって,メジャースートでのオープンの場合には,〜16 HCP くらいまで, ダブルではなく,1NT をビッドします(Lawrence による)。
 (注) [2NT バランシング] B 位置でジャンプして 2NT をビッドするのは,
WestNorthEastSouth
1 パス パス 2NT
19〜21 HCP のバランス・ハンドを示します。
 これは,アンユージュアル NT では ありません。

リファレンス
◇ N. Downey & E. Pomer: "Standard Bidding with SAYC" p.107 (Master Point Press, 2005).
◇ M. Lawrence: "The Complete Book on Balancing" p.20-21 (Devyn Press, 1983).
Bridge Forum International SAYC Notes (4/08/01). Competitive Bidding: Balancing (fourth seat).


バランシング・コールへの応答

 バランシング位置では,上に述べたように,King 1 枚を前借りしたつもりでビッドします。 したがって,アドバンサは,パートナーの手が標準よりも少し弱い (こともありうる) ことを 頭に置く必要があります。
 ただし,いつでも弱いとは限りません。
  (1) ダブル (10+ pts 無制限).
  (2) 1, 1に対する 1NT オーバーコール (12〜16 HCP).
  (3) ジャンプ・オーバーコール (上に説明済み).
これらの場合には,ゲームを逃さないよう注意します。


バランシング・ダブルへの応答


  1. [ダブルに対する NT 応答] それでは,さっきお預けになった答え方を …

    ―― このあたりになると,私も詳しくありません。
    自分自身の心覚えを兼ねて,上のリファレンスから まとめてみましょう。
    最初に,分かりやすいノートランプ応答から。

  2. [復習: D 位置の場合] その前に,ダブルに対する普通のノートランプ応答を復習していただけませんか。

    D 位置でのダブル に対するNT応答
       6〜10 HCP  ⇒1NT
     11〜12 HCP  ⇒2NT
     13+ HCP  ⇒キュービッド
    ―― それは,このホームページのどこかにある。 これです。
     付け加えると,D 位置のダブルに対してノートランプを答えるときには,ストッパが重要です。 あなたの左側にオープナーが坐っていますから,確実なストッパが必要です。 特に,メジャーオープンに対しては,気をつけます。
     それで,バランシング・ダブルに対しては (B 位置では) この基準値を,下の表にように,3 点ほど上げます。
    B 位置でのダブル に対するNT応答
       9 〜13 HCP  ⇒1NT
     13 〜14 HCP ⇒2NT

  3. 分かりやすいですね,これは。

    ―― 2NT というのが,一番はっきりしています。
    たとえば,オークションがこのように進んで,

    K J 7
    A Q 5
    K 9 2
    J 8 5 3 ( 14 HCP )
    [B] NorthEastSouthWest
    1 パス パス X
    パス 2NT
    右の手を持っているとき,2NT をビッドします。

  4. [1NT 応答の目的] 1NT をビッドする範囲は,広いですね。

    ―― はい。
    この範囲は,D 位置のダブルに答える場合も 6〜10 HCP という広さでした。
    ここでの 1NT は,

    9 〜13 HCP + ストッパあり +  4 枚のメジャースート無し
    をパートナー West に伝えて,その判断を容易にすることが目的です。
    2NT とは違って,NT を積極的に志向するビッドではありません。
     ただし,バランシング・ダブルに対する 1NT 応答は,その下限が微妙です。

  5. [どう微妙 ?] どういうことですか ?

    Q 10 7
    8 6 3
    J 7 5 2
    K Q 5
    ( 8 HCP )
    ―― 上の表では,B 位置のダブルに対して,8 HCP 以下の手では 1NT をビッドせずに,スートを何かビッドすることになっていますね。
     East が 右の手を持っている場合を考えてみましょう。
    オープニング・ビッドが 1 だったら,ここでは 問題なしに 1 をビッドします。
     けれども,1 オープンだったら,2 / 1NT の どちらかを選びます。
    [B] NorthEastSouthWest
    1 パス パス X
    パス 1
        
    [B] NorthEastSouthWest
    1 パス パス X
    パス 1NT / 2
    上の目的から判断すれば,1NT というビッドも (8 HCP ですが) 的外れとは言えません。

  6. [スートで答える] それでは次に,NT ではなしに,スートで答える場合を。

    ―― これについても,D 位置でのダブルに スートで答える復習から始めましょう。

      (1) 右オポがパスした場合,0 pts でもビッドする。
      (2) 右オポが何かビッドした場合.
        5 pts 以下では,パスする。
        6+ pts では,ビッドする (フリー・ビッド)。
      (3) ビッドする場合.
        自分の一番長いスートをビッドする。
        10+ pts では,必ずジャンプしてビッドする。
        13+ pts では,キュービッドする。
      (4) ペナルティー・パス

  7. [右オポがビッドした場合] このうちの (1) と (4) は,よく分かります。
    問題は,(2) と (3) です。

    ―― (2) について,ローレンスさんの本を調べてみました。
    はっきりした点数基準は 書かれていません。
     ただ,重要なのは,右オポ (オープナー) が ビッドした場合には,なるべく積極的にパートナーをサポートする ということです。
     この考え方は,D 位置のダブルの場合と全く同じです。
     手の例を見ると,この方針に沿って 6 pts 程度からビッドしています。
    たとえば,こんな例が載っています。

    K J 8 7 5
    Q 2
    10 6 5
    J 6 4 ( 7 HCP )
    [B] NorthEastSouthWest
    1 パス パス X
    2 2
    この例では,オープン側が弱い手であることが分かったので,パスせずに 競り合います。この 2 に ダブルが掛かってダウンすることはありません。

  8. [どのくらいでジャンプ ?] それでは,残る (3) はどうですか ?

    ―― そこも,分かりませんでした。
    King 1 枚を文字通り貸したことにして,機械的に考えると,0 〜12 pts という広い範囲で ジャンプしないことになる … それは,なんだかヘンです。
     そこで ローレンスさんにお伺いしました。
      そこには,11〜13 pts および 良い 10 pts の手でジャンプする と書かれています。 つまり,D 位置のダブルに対してジャンプする場合とほとんど同じ基準です。
     たとえば,上の手で,もしもオープナー (North) が 2 巡目にパスすれば, East は 1 をビッドします。
    けれども,次の手の場合には,ジャンプします。

    K J 8 7 5
    Q 2
    10 6 5
    A J 4 ( 11 HCP )
    [B] NorthEastSouthWest
    1 パス パス X
    パス 2

  9. [キュービッドは ?] そうすると,キュービッドも,D 位置の場合と同じで,
    13+ pts ですか ?

    ―― はい。そうなっています。
    したがって,キュービッドは,D 位置のダブルに対する場合とは異なり,ゲームを保証するわけではありません。

     結論として,バランシング・ダブルに対する答えかたは,
     [1] ノートランプは,
        King 1 枚貸したことを忘れずにビッドする。
     [2] スートは,D 位置と同じ基準でビッドする。
    パートナーとの間でこのように了解しておけば,誤解が生じないでしょう。


バランシング・オーバーコールへの応答


  1. バランシング・コールがダブルの場合の受け答え方は だいたい分かったので,安心しました。 それでは次に,オーバーコールの場合を …

    ―― こちらの方は,ローレンスさんの本を読んでも,考え方が 分かりません。

    一応,今の段階で理解した まとめ を書いておきしょう。
     [1] 全体として,King 1 枚を貸したことを念頭に置いてビッドを考えるようです。 つまり,ダブルの場合と違いがあります。
     以下は,オープナーがパスした場合です。
     [2] たとえ 4 枚の切り札サポートがあっても 7 pts 以下ではパスする。
     [3] 切り札 2 枚でストッパの無い手も 11 HCP くらいでは (キュービッドせずに) パスする。
     [4] オーバーコールを 1 つ上げるのは 8 〜12 pts の場合.
     [5] キュービッド・レイズは 13 pts くらいから.
     [6] 1NT = 9〜12 HCP. 2NT = 11〜12 HCP. 2NT ジャンプ = 12〜14 HCP.
    例とともに点数が書かれているのですが,その根拠が説明されていません。

  2. [複雑] なんだか,ごちゃごちゃしていますね。

    ―― はい。全体の方針がはっきり書かれていないので,例から読み取ると,このようになりました。
     全体の方針を書きにくいのは,バランシング・コールの性質のためです。
    たとえば,オープニング・ビッドが 1 か,1 かによって,状況は全く変わります。そのうえ,オープナーが再度ビッドすれば,状況は複雑化します。

  3. [単純化] もっと単純にできないんですか ?

    ―― では,私なりに整理してみましょう。
    はじめに,右オポ (オープナー) がパスした場合から。
    最初に重要なのは,バランシング・オーバーコールに対しては,

    NT も スートも,King 1 枚を貸したこと忘れずにビッドする。
    ということです。

  4. [なぜ違うか] さっきのバランシング・ダブルの場合とは,違いますね。
    どうしてなんですか ?

    ―― ダブル と オーバーコール の性質の違いです。
    前者は フォーシングであり,後者は ノン・フォーシングです。
     (A) ダブルの場合,フォーシングなので, (オープナーがパスすれば) アドバンサは,何かビッドします。 しかし,ビッドの余地は十分あるので,1 の代で何かビッドできます。
     (B) オーバーコールの場合には,ビッドの余地は少ない。したがって,選べるビッドが限られます。 とはいえ,ノン・フォーシングなので,弱い手ならば パスも許されます。無理して 代を上げて答える必要はありません。
     実際,多くの場合,パスで十分です。オープナーがパスしている状況で,パス以外のビッドをアドバンサが考えるのは,
       (B1) 何かゲームがあるかも知れない.
       (B2) コントラクトをちょっと改善したい (NT を含む).
    この 2 つの場合です。
    スートでのバランシング・オーバーコールは,ダブルと違って,上限が 14 pts くらいです。 したがって,(B1) の判断は容易です。

  5. [サポートありの場合] まだよく分かりませんが …。
    それでは,切り札のサポートがある場合から説明して下さい。

    ―― 3 枚 あるいは 4 枚の切り札のサポートがある場合
     (1)  7 pts 以下では (切り札のサポートがあっても) パスします (例)。
     (2) 8 〜12 pts では,1 つ上げます。
     (3) 13+ pts では,キュービッドします。

  6. [サポートなしの場合] これなら確かに King 1 枚貸したことを忘れずにビッドしていますね。
     では,次に 切り札のサポートが無い場合を …

    D 位置でのオーバーコール
    に対する NT 応答
       8〜11 HCP  ⇒1NT 
     12〜14 HCP  ⇒2NT 
    B 位置でのオーバーコール
    に対する NT 応答
      11〜14 HCP  ⇒1NT 
    ―― オープナーのスートにストッパがあるバランス・ハンドでは, ノートランプをビッドできます。
     D 位置での基準を復習すると …

  7. [NT 応答] それも どこかにあった … これです。

    ―― それを,3 点上げて使います。
    バランシング・オーバーコールは,かなりひどい手のことがあるので,1NT をビッドするには,これくらい必要です。

  8. 15+ HCP の場合には ?

    ―― その場合には,初回にパスではなく,1NT オーバーコールできます。

  9. 14 HCP でも 1NT なんですか ?

    ―― はい。2NT には 23 pts 必要ですから (Rule of 23)
    ただし,バランシング・オーバーコールが 2 の代でしたら,10 HCP くらいを期待できるので,13〜14 HCP では 2NT をビッドします。

  10. [新しいスート] レスポンダが新しいスートをビッドするのは ?

    ―― 「自分のスートの方が切り札として良さそう」と思う場合に,新しいスートをビッドします。 これは,D 位置でのオーバーコールに対する場合と同じで,ノン・フォーシングです。でも,そういうことは,滅多に無いでしょう。

  11. [フリー・ビッド] それでは,オープナーが何かビッドした場合には ?

    K J 7
    10 6 5
    9 2
    K 10 8 4 2
    ( 7 HCP )
    ―― たとえば,この手では,切り札 (スペード) が 3 枚で 7 HCP あります。
     右オポが 1オープン,あなたはパスして,パートナーが 1 と バランシング・オーバーコールしました。
     ここで,オープナー (North) がパスすれば (左), あなたもパスします。スペードでのゲーム 4 は無いし,North がパスしているので,競り合う必要も無いからです。
     けれども,オープナーが何かビッドした場合には (右),サポートを示して競り合います。
    NorthEastSouthWest
    1 パス パス 1
    パス パス
        
    NorthEastSouthWest
    1 パス パス 1
    2 2

  12. [ごちゃごちゃ] なんだか頭の中がごちゃごちゃしてきた …。 右の場合は,フリー・ビッド (パスしてもよかった)。 だから,右の場合の 2 の方が強い手を示すはず …。

    ―― ごちゃごちゃは 無理ありません。ここでは,フリー・ビッドの意味が 普通とは違うからです。

  13. [D 位置との比較] 1 が,バランシングではなくて,普通のオーバーコールの場合には ?

    ―― それは,復習ですね。
    どこかにあったと思うけど,自分からビッドできるスートが 1 つの場合, ダブルせずに オーバーコールする手の上限は 17 HCP でした。
     ですから,1 が D 位置の場合には,上の手を持っている West は,パスせずに 2 に上げます。 このビッド 2 は,競り合うためではなく,ゲームを逃がさないためです。
     一方,1 が B 位置の場合には,East がここでパスしても,ゲームを逃す惧れはありません。 バランシングした West の手の上限が低いからです。

    [D] NorthEastSouthWest
    1 1 パス 2
        
    [B] NorthEastSouthWest
    1 パス パス 1
    パス パス


安全なバランシング

  1. [B 位置] 上の表題にある「安全な」とは,どういう意味ですか ?

    [B1] NorthEastSouthWest
    1 パス パス ?
    ―― これまでのバランシングの説明では,右の場合だけを想定してきました。 けれども,こういう場合は 実際には少ない。

  2. 言われてみれば,確かに少ないですね。
    この場合,South が 5 点以下 ということは,はっきりしている。
    East は,ある程度の強さがあれば,メジャースートでオーバーコールとか,ダブルをした筈です。
     だから 最もありうるのは,ある程度強くて,でも ダブルできずに涙を呑んだ …

    ―― はい。その通りです。これまでは,そのように想定してきました。

    [B2] NorthEastSouthWest
    1 パス 2 パス
    パス ?

    しかし,バランシング位置には [B1] の他に,[B2] もあります。
     すなわち,自分が初回パスしていて,2 巡目に リオープンする場合です。

  3. あぁ,なるほど …. つまり,最初はダブル/オーバーコールするには,手の強さがちょっと不足していたのでパスした。 でも,相手側が弱い手だということが分かったので,リオープンするんですね。

    ―― はい。この位置での リオープンも,バランシングです。
    このビッド経過では,相手側が 13 + 6 = 19 pts 程度を持っています。ですから,味方も同じくらいを持っています。 味方がメジャースートを 2 の代で勝ち取る可能性が十分あります。
    この [B2] の状況で リオープンするのは,安全です。

  4. オープンされたスートが ではなくて,,, でも同じですか ?

    ―― はい。基本的には同じです。[B2] でのバランシングは,確率の観点からも推奨されます。
     ただし,1‐2 に介入する場合には,用心が必要です。 2 にダブルすると,最低でも,パートナーは 3 の代でのビッドを余儀なくされますから。

  5. 同じように,相手が弱いことが分かる こういうビッド経過の場合は ?
    [B3] NorthEastSouthWest
    1 パス 1 パス
    2 パス パス ?
        
    [B4] NorthEastSouthWest
    1 パス 1NT パス
    2 パス 2 ?

    ―― [B3] は [B2] と同程度に安全ですが, [B4] では,下に説明するように, 「安全性」が下がります。 残る 2 スート () がどちらも 4 枚で,それなりの強さが必要です。

    「ビッド練習」バランシング

バランシングと確率

 よく言われるように,
   「相手側にフィットがあれば,味方にも何かフィットがある」
 これは,バランシングを考える場合にも有効です。
 確率の観点からこれを調べてみましょう。
  (1) [B2] の場合
 相手側の の枚数は,4 + 4 = 8 枚です。
 このとき,味方の は,13 − 8 = 5 枚です。
 そこで 味方の残り 3 スート には,13 × 2 − 5 = 21 枚あります。
 最悪の場合には,この 21 枚が 7 枚づつに分かれて,7‐7‐7‐5 となり,味方に 8 枚スートはありません。
 私の正確な確率計算によると,その発生確率は 14.8 % です。
すなわち,85.2 % の確率で 8 枚スート (少なくとも 8‐7‐6‐5)味方にあります。 リオープンのダブルをすれば,この 8 枚スートの切り札見つけられます。
  (2) 最悪の場合 (14.8%)
 上の最悪の場合 7-7-7-5 について,更に考えます。
この最悪ケースでは,相手方の枚数分布は,7‐7‐7‐5 を裏返した (13 の補数を取った) 6‐6‐6‐8 です。 ダイヤモンド以外は どれも 6 枚です。 もしも この 6 枚が 3‐3 に分かれていれば,味方が 4 枚目をエスタブリッシュにより取れます。
したがって,「最悪」を さほど気にする必要は無さそうです。
 (3) [B4] の場合
  [B4] についても,同様に確率を調べましょう。
この場合,プリファーした South の は 2 枚であり,8 枚のスートは無いでしょう。 相手側が 7 枚フィットの場合には,味方も 確率 66.7 % で 7 枚フィットです。 つまり,
  「相手側にフィットが無ければ,味方にもフィットが無い」
のです。
 結論として,[B4] でのバランシングは 成果が少ないので 危険です。
 この結論も,ブリッジの本に経験則として書かれています。
 しかし,上のような数値に基づく根拠は,たぶん 他に見られないと思います。


2スートを同時に示すオーバーコール

マイケルス・キュービッド (Michaels)  …   97‐100.
マイケルス・キュービッドに対抗する  …     101.
アンユージュアル・ノートランプ (UNT)  …  102‐105.
アンユージュアル・ノートランプに対抗する  …  105‐106.

マイケルス・キュービッド

  1. [どんなコンベンション] マイケルス・キュービッドは,どういうコンベンションですか ?

    ―― 基本の形は,右オポが 1 または 1 オープンした場合です。
     このとき,直ちに 2 または 2 と オーバーコールするキュービッドを マイケル・キュービッド (Michaels Cuebid) と言います。"マイケルス" とは, Mike Michaels という人の姓です。(ブリッジの本で有名な Michael Lawrence とは別人です)

    RHOあなたLHOPard
    1 2 !
       
    RHOあなたLHOPard
    1 2 !
     このキュービッドは,もともとは,デマンド 2 に相当する強力な手を 持つディフェンダのビッドでした (したがって,ゲーム・フォーシングのキュービッドでした)。 しかし,そんな強い手が来ることは滅多に無いので それを取り止めて,代りに このコンベンションが使われています。

  2. [5-5 の両メジャー] マイケルス・キュービッドするための条件は ?

    [1] A 10 7 4 3
    A J 5 3 2
    6
    5 2
    ( 9 HCP )
    ―― 上の場合, に どちらも 5 枚以上 絶対に 必要です。たとえば このような手で,マイケルス・キュービッドを使います。
      1 回のビッドで 2 スート を同時に示すのが 特徴です。

  3. 強さの条件は ?

    ―― 強さについては  2 通りの流儀があり,現在は (2) が主流です。
      (1) 点数に制限を付けずに,一律にマイケルス・キュービッドを使う.
      (2) 点数の範囲により 区別してビッドする.

  4. [Mini-Maxi] どのように区別するのですか ?

    ―― ミニマキシ (Mini-Maxi) と呼ばれる方法です。
    つぎの 3 つ に分類します。
      (A)   8 〜12 pts では,軽い気持ちで マイケルスを使う,
      (B) 13 〜15 pts では,初回に 1 を,次回に 2 をビッドする.
      (C) 16+ pts では,マイケルスを使う.
    というものです。ただし,(A) と (B) の境界線は,人により若干の違いがあります。

  5. [気持ち] この分類は,さっき出てきたオーバーコールする人の気持ちに副っていて,分かりやすいです。

    ―― はい。それが,私の頭の中にある整理箱です。

  6. ハンド [1] のように オープンの基準に達しない手でも,両メジャーが 5-5 ならば,1 の代のオーバーコールと同じように,軽い気持ちでマイケルス …。
     これは,よく分かります。
    その上の (B) と (C) の区別は ?

    [2] K 10 5 4 3
    K Q 9 7 5
    A
    10 8
    ( 12 HCP )
    RHOあなたLHOPard
    1 1 2 パス
    パス ?
    ―― (B) は 自分でもオープンできる手の場合です。
    ここでは,1 から入ります。
    もしも (幸いに) オークションが右のように進んで,2 の代で順番が巡ってきたら 2 をビッドします。
    これにより,パートナーは,あなたの手の強さの範囲を正確に知るので, 正しい判断を下せます。

  7. ここでは オープナーが 2 巡目にパスしたので,私が 2 をビッドできます。
     もしも オープナーがパスではなくて,3 をビッドした場合には ?

    ―― その場合,あなたはパスします。
    パートナーがパスしている状況で,(B) の場合,自分から 3 の代に上がることはできません。

  8. 3 番目の (C) は …。

    [3] Q J 10 7 3
    A K J 5 2
    A
    10 8
    ( 15 HCP )
    RHOあなたLHOPard
    1 2 3 パス
    パス 3
    ―― (C) は それより強い。
    ちょうど「強い手のダブル」に似た感覚です。
    つまり 「強い手のダブル」を掛けるような気持ちで,マイケルス (C) を使います。
     右の手 [3] では 左オポが 5 枚の でプリエンプトしました。 それでも,あなたは 自分のスートを示せる強さを持っています。

  9. 確かに,これは 強い手のダブルと同じです。
    これを受けて,パートナーは何をビッド …。

    ―― この場合,パートナーは せいぜい 5 pts くらいしか持っていないので, の 良い方を選びます。 が良ければ 3 をパス, が良ければ 3 を返します。

  10. RHOあなたLHOPard
    1 2 パス ?
    それでは,マイケルスに対して パートナーは 一般に どう答えるのですか ?

       多くの場合 弱い手なので,レスポンダ (LHO) が パスすれば,長い方で  2 または 2 により ケリがつきます。
    ただし,
       切り札が 4 枚あれば,レスポンダ (LHO) が何かビッドした場合でも, 3 または 3 をビッドして競り合います。

    RHOあなたLHOPard
    1 2 パス 3
        のどちらかが 3+ 枚 ある 10+ pts の手では キュービッドします (上の例では 3)。
     これは パートナーのマイケルスが (C) の場合にゲームを逃さないためです。

  11. 10+ pts でキュービッドした場合,(C) Maxi だったらよいけれど,
    (A) Mini のこともありえますね。

    RHOあなたLHOPard
    1 2 パス 3
    パス 3 パス パス/3
    ―― (A) の場合には,パートナーから 3 が返ってきます。 そこで,あなたが の良い方を選びます。 こうすれば,3 の代で止まれます。

  12. 「基本の形」以外にも,1 や 1 にキュービッドする マイケルスもありますか ?

    ―― はい,あります。それについては,すぐ下で説明します。
    ただし,マイケルスを初めて使う人は,上の基本の形で使い慣れるようにして下さい。

  13. 基本の形以外の場合は … ?

    ―― 4 通り全部をここに書いておきましょう。

    RHOYouLHOPard
    (1) 1 2 !  の両方に 5+ 枚を保証
    RHOYouLHOPard
    (2) 1 2 !  の両方に 5+ 枚を保証
    RHOYouLHOPard
    (3) 1 2 !  と どちらかのマイナースートに 5+ 枚を保証
    RHOYouLHOPard
    (4) 1 2 !  と どちらかのマイナースート に 5+ 枚を保証

  14. 上の表の (3) と (4) の場合,メジャースートのフィットが無いとき, オーバーコーラーのマイナースートがどちらだか分かりませんね。

    RHOあなたLHOPard
    1 2 パス 2NT
    ―― それを知りたいときには,2NT をビッドします。
    パートナーは,自分のマイナースートを 3 の代でビッドしてくれるはずです。

  15. リファレンス:
    David Lindop: "What's Standard ?" (2007) [PDF],
     #29, Michaels Cuebid.

競り合いのビッド (マイケルス・キュービッドに対抗する)

  1. マイケルス・キュービッドに対抗する方法は ?

    ―― オープンされたスートをサポートできる場合には,点数不足でも,サポートを示して競り合います。

    PardRHOあなたLHO
    1 2 3
        
    PardRHOあなたLHO
    1 2 3
    ここで,あなたのビッド 3, 3は,どちらも背伸びしたビッドです。
    もしもオーバーコールが無ければ,それぞれ,2 の代で 2, 2をビッドした筈の 9 pts 以下の手を示します。

  2. ほんとに リミット・レイズしたいような手の場合には ?

    ―― マイナースートで リミット・レイズ以上の手を持っていれば

    PardRHOあなたLHO
    1 2 2
        
    PardRHOあなたLHO
    122
    とビッドします。この 2 が クラブでの リミット・レイズ (3) 以上 を 意味します。
     また,2 がダイヤモンドでの リミット・レイズ (3) 以上 を意味します。
    どちらも キュービッド・レイズ (注) です。
     このように,キュービッドを使うと,相手側の介入を逆手に取って (本来の代よりも) 低い代で 正確な情報を伝えることができます。

     (注)  ここでは マイケルスが 2 スート , を同時にビッドしています。
    そこで,下位の (上位の) マイナースートに 下位の (上位の) メジャースートを対応させます。

  3. PardRHOあなたLHO
    1 2 X
    もしも 私がダブルすると どういう意味になりますか ?

    ―― このダブルは,とくに適当なビッドが無い 10+ pts を示します。
    自分たちの方が強いことをパートナーに伝えて,介入を撃退します。
     ちょうど,テイクアウト・ダブルに リダブルするような感じです。


アンユージュアル・ノートランプ (UNT)

  1. アンユージュアル・ノートランプとは,どういうコンベンションですか ?

    ―― 基本の形は,右オポが 1 または 1 オープンした場合です。
    このとき,大胆にも 2NT オーバーコールするビッドを
         アンユージュアル NT (Unusual NoTrump, UNT)
    と言います。
    たとえば,こんな手

    [1]  10 6
    9
    K 9 8 6 2
    A J 9 7 2
    ( 8 HCP )
        
    [2]  7
    J 5
    A K 7 5 2
    K Q 6 4 3
    ( 13 HCP )
    これを持っているあなたが,
    RHOあなたLHOPard
    1 2NT
    このように ジャンプして 2NT オーバーコールします。
    初めてこれを使うときには,ちょっと勇気が要ります。

  2. UNT をビッドするための条件は ?

    ―― 上の場合, に どちらも 5+ 枚が 絶対に 必要です。
    強さ (ポイントカウント) については,実に, いろいろの意見があり, 0 HCP (零点) でもよい,という人もいます。 パートナーとの取り決め次第と言うしかありません。
     北ブリッジ倶楽部のホームページの初級室 (コンベンション(A)) に, ひとつの判断基準が例とともに載っています。ちなみに,北ブリッジ倶楽部のホームページはとても充実した内容で, ブリッジ・プレイヤーにとって必見です。
     ただ,こういうものまで全部暗記してブリッジをするのは面倒です。
    一応の基準として,8+ HCP ということだけで いいんじゃないでしょうか。

  3. マイケルスの場合と同様に,点数の範囲を分けて,中くらいの手では 2 スートを 2 回に 分けてオーバーコールする流儀があるようですが …。

    ―― そう,なぜか 多くのブリッジの本が そう勧めています。
    そのやり方は,Mini-Maxi と呼ばれています。
    ところが,その基準は 人によって 実にさまざまです。
    ご参考までに,4 冊の本から抜き出して 表にします。

    [A] (2NT) [B] ( 2 回オーバーコール) [C] (2NT)
     A 9 pts 以下 10〜15 pts 16+ pts
     B  8 〜12 HCP  13〜15 HCP  16+ HCP
     C  12 HCP 以下  13〜16 HCP  17+ HCP
     D  8+ HCP,区別せずに 2NT

  4. どれがいいんですか ? さっきのように,気持ちで分類してはいけませんか ?

    ―― Mini-Maxi が絶対に良いという人もいれば,D が良いという人もいて,さまざまです。 いろいろ試してみて,自分で決めるほかはありません。
     ただ,私は D が良いと思います。その理由 は単純です。
    UNT は,「自分でコントラクトを買いたい」と いうよりは,妨害 (プリエンプト) を狙うビッドです。このビッドの本質がそこにあるので,オーバーコールより 2NT の方が ずっと効き目があります。

    [2]  7
    J 5
    A K 7 5 2
    K Q 6 4 3
    ( 13 HCP )

     たとえば,[2] の場合 (再掲) A〜C のどれも,初回に 2をビッドして 次回に 3をビッドしようと計画します。 話が そう うまく行けば 問題無いのですが,次回にはビッドの代が上がってしまっていて,この程度 (オープンできる程度) の強さでは を ビッドできないのが普通です。
     それよりは,最初に 2NT をビッドして パートナーに良い方を選んでもらう方が 現実的です。 何より,1 回のビッドで自分の手の特徴を伝えられるのが 強みです。 左オポ (レスポンダ) のビッドを 3 の代に吊り上げる効果も重要です。

     ただし,どういう基準を使うにしても,5-5 の 2 スート以外の Q や J には ほとんど値打ちが無いことに注意して下さい。 特に,弱い手で 2NT をビッドする場合には 絵札が 2 スートに集中していることが必要です。

  5. それでは,2NT をオーバーコールした人の強さが 全然分かりませんね。

    ―― アドバンサは,オーバーコーラーが 長さ 5 枚の 2 スートを持っていることを知ります が,その強さは分かりません。D の場合,(テイクアウト・ダブルのときと同様に) オーバーコーラーがオープンできる手を持っていると仮定して, 目一杯の高さで ビッドします。
     具体的に言うと,3+ 枚の切り札のサポートがある場合:
       自分もオープンできるくらいの手ならば,4 の代にジャンプしてビッド。
       それより もっと良い手ならば,キュービッド (上の例では  3)。
       場合によっては,3NT もありえます。
       それ以外の場合は,長い方のスートを 3 の代でビッドします。  

  6. それでは オーバーコーラーが弱い手のとき,ダウンしてしまいますね。

    ―― はい。
    もともと UNT は そんなことを気にしないビッドです。

    3 2
    2
    6 5 4 3 2
    6 5 4 3 2
    ( 0 HCP )
    非常に極端な例として,こんな場合 を考えてみましょう。
    ここで 1 に 2NT オーバーコールします。
    何トリック取れるでしょうか ?
     パートナーがどちらかのマイナースートを 3 枚の切り札でサポートしてくれると,切り札で たぶん 2 トリック取れますね。同じ理屈でもうひとつのマイナースートでも,1〜2 トリック取れるでしょう。
     つまり,二人合わせて ほんとの 0 点のとき,受けに回ったら 1 トリックも取れません。けれど,5-5 ならば, 攻めに回ると 数トリック取れます。
     要するに,5-5 は受けには弱くても,攻めに強い。ですから,この型の手では,なるべく 積極的にビッドします。UNT は その見本です。

  7.  2NT のビッドは,1, 1 オープンに対しても使えますか ?

    ―― はい。
     1‐2NT の場合には, にどちらも 5 枚を保証します。
     1‐2NT の場合には, にどちらも 5 枚を保証します。

     ここで,2NT は,ビッドされていない下位 2 スート (Unbid Two Lower Suits) を示します。

  8. さっきの手 [1] で,わたしが最初にパスした場合は,どうなりますか ?

    RHOあなたLHOPard
    パス 1 パス
    1 1NT
    ―― この手 [1] は オープンできる手ではないので,初回はパスします。 その後,オークションが右のように進めば,2 回目に 1NT をビッドします。
     もしも あなたが初回にパスしていなければ,この 1NT は,良いバランス・ハンド (15〜17 HCP) と , の ストッパを示します。しかし 今は,初回にパスしたので,1NT が アンユージュアル NT を意味します。

  9. マイケルス・キュービッドと アンユージュアル・ノートランプは よく似ていますね。 何か,考え方に違いがありますか ?

    ―― 外形的な違いはありません。ですから,ブリッジの本では,並列して説明されています。 しかし,私の感覚では,この 2 つには,はっきりした違いあります。
     UNT は,2NT をビッドするので,パートナーからの返事が 必ず 3 の代になります。このため,破壊性の強い ビッドです。自分たちがコントラクトを買うというよりは,相手側を邪魔する性格が強い。マイナースートのため, 競り合いにも弱い。
     これに対して,マイケルスでは,メジャースートでの返事が 2 の代で返ってきます。競り合いになった場合にも, メジャースートは強い。
    したがって,マイケルスの場合には,「自分たちがコントラクトを買う」可能性が UNT のときよりも ずっと高い。
     この違いを念頭においてビッドを考える必要があります。

  10. リファレンス
     David Lindop: "What's Standard ?" (2007) [PDF],
      #28, Unusual Notrump.

競り合いのビッド (アンユージュアル・ノートランプに対抗する)

  1. UNT に対抗するビッドの方法は ?

    ―― UNT というのは,ほとんど妨害が目的のビッドであり, これを使うと,ビッドの代が吊り上がります。 オープン側にメジャースートでゲームがありそうな場合にそれを邪魔し,あわよくば,自分たちがマイナースートでコントラクトを取ろうという作戦です。
    したがって,レスポンダも,これに対抗して積極的にビッドします。
     たとえば,オークションが

    PardRHOあなたLHO
    1 2NT ?
    と進んで,あなたがビッドする番です。
    [1]  10 4 2
    A Q 10
    8 3
    Q 9 8 7 4
    ( 8 HCP )

     ハートのサポートが 3 枚で 9 pts の右の手では,もしもオーバーコールが無ければ,2 をビッドするところです。 でも,2NT オーバーコールが入ったので,それは できません。パスしますか ?
     ハートをビッドする機会は,今しかありません。
    ここで 3 をビッドします。
    PardRHOあなたLHO
    1 2NT 3
    この 3は,もちろん,背伸びしたビッドです。
    オープナーを 4に誘っているのではありません。

    [2]  A K 7
    8 6 4 2
    10 7 5 3
    K 9
    ( 10 HCP )
  2. それでは,この手 [2] では どうするのですか ?

    ―― ハートのサポート 4 枚と 10 HCP が あります。
    もしも 2NT オーバーコールが無ければ,リミット・レイズ 3 により オープナーを 4 に誘うところです。
    でも,3 をビッドすると,上の背伸びビッドと区別がつきません。

    PardRHOあなたLHO
    1 2NT 3
     そこで,リミット・レイズしたい場合には,3 をビッドします。
    この場合,3 の代の応答は,それぞれ 次の意味を持ちます。
    Unusual Over Unusual
    ビッド 1‐2NT の場合 1‐2NT の場合
    3 良い を示し,
    ノン・フォーシング.
    にフィットあり,
    リミット・レイズ未満の強さ.
    3 にフィットあり,
    リミット・レイズ未満の強さ.
    良い を示し,
    ノン・フォーシング.
    3 良い を示し,
    ゲーム・フォーシング.
    で リミット・レイズ以上.
    3 で リミット・レイズ以上。 良い を示し,
    ゲーム・フォーシング。
    上の例では切り札がハートですが,もしも 切り札がスペードだったら
    PardRHOあなたLHO
    1 2NT 3  
    この 3が「リミット・レイズ以上」を意味します。
    この対抗策を "Unusual Over Unusual" と呼びます。
     2NT オーバーコールは , の両方をビッドしているので,3, 3相手スートをビッドするキュービッドです。
    つまり,これは キュービッド・レイズの一種です。
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